中国の大手通信機器メーカ「HUAWEI」(ファーウェイ。中国語表記では「華為」)の方から、ファーウェイとはなにか、どこから来たのか、どこに向かうのか、の3つについてお聞きしました。

ファーウェイといえば昨年、新卒エンジニアの初任給が月40万円以上ということで大きな話題になりました。

中国人民解放軍の元技術者が1987年に深センで設立したファーウェイが、いかにしてスマホ世界シェア第3位の巨大グローバル企業に成長したのでしょうか。

ファーウェイとはなにか

・人件費の45%が研究開発(R&D)、45%が市場開発(マーケ)、残り10%が管理と生産部門。研究開発に回す予算の比重が非常に大きい構成。

・研究開発費用への投資額も非常に多い。2017年の研究開発費は897億元(約1兆5000億円)。ここ10年の研究開発費の総額は3940億元(約6兆5000億円)

・世界各国に研究センターがある。深センの研究センターが一番大きい、北京や上海、西安や成都にも1万人規模の研究センターがある。中国国内だけでなく、世界中の優秀な人材を獲得したい

・数学が強いロシアには数学の研究センターを設けた。美学に優れたフランスには美学の、無線技術に優れたスウェーデンには無線の、マイクロウェーブ技術に優れたイタリアにはマイクロウェーブの研究センターを設けた。アメリカにも二箇所研究センターがある

・ファーウェイの従業員(中国人だけでなく現地採用の社員も多いので。海外従業員は約4万人)が世界中で活動している、170カ国に進出しているため、海外で航空機の事故があると、ファーウェイの従業員が乗っていたというケースが多い。航空機事故のニュースはファーウェイにとって注意するニュース

・全世界75位の企業ブランドランキング

・2017年の純利益は470億元。高い利益ではなく、合理的な利益を追求している。高すぎる利益というのは顧客に損害を与えており、低すぎる利益は事業存続性を失い、結果として顧客に損害を与える

・ファーウェイの従業員の平均年収とかは非公開。完全なる平等というのはありえない。貢献によって変わってくる。しかし平均年収とかを出すと、数字が独り歩きしたり、序列とかついてあまりよろしくない

・ファーウェイの事業活動は「繋げること」に専念。異なる事業(金融とか不動産とか)に手は出していない

・主に3つのサービスが有る消費者向けサービス(スマホ)、通信事業者向けサービス(通信基地や回線インフラを提供する)、企業受けサービス(通信サービス)

・消費者向けサービスの伸び率が高く、30数%の売上を占めている。今年はスマホ世界シェア第2位になる見込み。

・通信事業者向けサービスの売上を2017年には超えるであろう。企業向けサービスは9.1%

・「データの流れるところにファーウェイがある」。端末、データ、通信、この3つを抑えている

・1996年から海外進出を始め、2000年から大規模に進出

・西洋諸国は中国企業に対して技術面からネガティブなイメージを持っていたため、進出には苦労した。そこで、マイルストーンとして、メッカなどの世界的に著名な場所でサービスを提供した

・専念、イノベーション、責任重視、この3つに注力したからこそ、だからこそ世界に認められた。

・ファーウェイが日本の通信事業者と取引が拡大するに当たり、東日本大震災が契機になった。震災後の通信復興に当たり、ファーウェイとして手厚いサポートをした。それにより信頼を獲得した。これはファーウェイの「責任重視」を物語るエピソード

ファーウェイはどこから来た

・たった6人で、ボロボロのビルの一室で創業。床に座って仕事をしてた

※TOP画像が創業ビルの写真

・TOP50の通信事業者が世界の70%の市場を占めている。彼らは高品質な設備を常に求める。イノベーション力を求める

・通信事業者はサプライヤーに対し、堅実性を求める。資材を調達できなくなったら大変なので

・コンプライアンスも求める。知財トラブルが発生したら欧米では大問題。欧米の知財ルールを守らないといけない

・この3つのボトルネック(イノベーション力、堅実性、コンプライアンス)、通信事業者からの要求を達成する必要があり、ファーウェイはこれを達成した

・Ericsson、Nokia、といった先行する競合がいたが、競り勝った。初めてヨーロッパの通信事業者から受注した際は、金額自体は小さかったものの、ヨーロッパでは大きな衝撃をもって受け止められ、その日にEricssonの株価が4%下がった。

・かつての中国企業にマネージメントの文化はなく、ファーウェイも同様だったが、1996年にその問題に気づいた。急激に企業規模が拡大する中で管理が混乱しだした

・西洋諸国のマネジメント手法を学ぶべく、世界トップのコンサルティング会社との契約も検討したが、あえてIBMを顧問に招いた。IBMは成功と失敗を繰り返して大きくなった。その経験こそが大事だと思った。IBMのシニアコンサルタントは1時間800ドル。彼らの一人あたりの1日のコンサル料は、当時の中国の優秀なエンジニアの年収と同程度。忙しいときは300人のコンサルタントが同時に稼働した。

・ファーウェイ社内で最も優秀な人材達をプロジェクトに集めた。売上に直結するわけではない、一見するとつまらない裏側の仕事だから反発もあったが、それだけマネジメントの変革が必要だと考え、断行した

・IBMに対しては、数億ドルもの莫大なお金を支払うのだから(前年の利益とほぼ同額!)、これだけ取り組むのだから、絶対に失敗できない、社内で最も優秀な人材をアサインしてくれ、と要望した。その結果、優れたマネジメント体制を構築できた

・毎年3億ドルの特許料を支払っている。欧米の知財ルールをキチンと守っている。彼らの世界でビジネスをするには、彼らのルールを守る必要がある

・ファーウェイは特許を「利益を得るための道具」ではなく「障壁を突破するための道具」と捉えている。特許料を稼ぐのではなく、特許を武器に市場に進出したり、他社と連携したりする

・西洋の文化は法律→理論(合理性)→感情。東洋の文化は逆。感情→理論(合理性)→法律。ファーウェイ的にはむしろ西洋の文化がやりやすい

・ファーウェイ成功の秘訣は価値観の成功だと思う。人の価値観はその行動を決め、その行動が最終的な結果を決める。

・知本(知識の資本)が資本よりも重要。従業員の知識、知恵、人材の質、非常に重視している。そのような価値観があったから、まだそんなお金がなかったときに、IBMに数億ドルも払ってマネジエントを学んだ

・なかなか黒字にならなかった発展途上国で、ようやく利益が出た。CEOが視察に行ったら、ホテルのアメニティが中国製品だった。本社の人が視察に来るので、現地責任者が気を利かせて置いたらしい。それに対しては叱責した。顧客に顔を向け、上司に知りを向けろ、ごますりにエネルギーを使うな、というのが社内文化

・CEOが出張から帰り、空港から家に戻るときに、会社手配のリムジンを手配するのではなく、WeChatでタクシーを手配する。

・18万人の従業員のうち8万人の中心社員が社員持株会に入ってる。人材を重視するため、高い報酬を払っている。そうすると会社のお金がなくなる。成長への投資にお金を回せなくなる。そこで、社員に払った高い報酬で、会社の株を買ってもらう。お金が会社に戻ってくるので、成長への投資に回せる。それによって会社が発展すれば、社員は配当を受けられるし、持ち株の資産価値も向上する。そうすれば高い給料を支払える。社員としても持ち株の価値を高めるために仕事を頑張る。という好循環。

・成長のDNA,価値観が会社を発展させる。ファーウェイの成長は、持続的に戦うこと、長期的な努力の精神で実現した。

・全ての問題は明らかにしてこそ解決できる。だからこそ暴露と自己批判が重要。社内には、ファーウェイ心のフォーラム(掲示板)がある。完全匿名性で投稿できる。不満があれば掲示板に書き込める

ファーウェイはどこに向かうのか

・ファーウェイはこの30年間で世界の「つながる」を実現してきた。だかそれは、人と人とのつながり

・これからはIOTの時代。人と物、物と物、あらゆるところがつながる。ファーウェイはそれを実現する

・今日の管理手法は今だから使える。環境は絶えず変化するから、ファーウェイは毎年コンサルティング会社に多額の投資をし、管理手法を変化させている

・品質管理は日本企業、日本のコンサルから学んでいる

・ファーウェイは業界のトップになった。これからのライバルは誰か。たしかにトップにはなったが、その分顧客が増えれば、クレームの数も増えるだろう。研究開発費の使い方、製品の技術、その方向性は正しいの?自己批判。情熱を持って挑戦が必要

・ファーウェイといえども、大企業病は必ずやってくるだろう。大企業であっても、柔軟性があり、イノベーション力がある企業にならなければならない。

・通信の低コスト化、高品質化は、もちろん会社が向かうべき方向性

・方向性は、大体あってればいい。組織の活力、柔軟性、方向性を状況に合わせて迅速に修正できることが大事

・人材の限界を打ち破る。古株で上のポストにいる社員が、その実力や貢献にかかわらずに既得権益を得ることのないよう。優秀なら若手でも外部の人材でも上のポストにつけるようにする

・利益の広範な分配。新しい社員も会社の成長を享受できるようにする。

最後に重要なこと

以上、ファーウェイの講演内容について色々と紹介をしてきましたが、僕の方からも補足しておくことがあります。

これは、ファーウェイを紹介するに当たり、避けて通れない話題です。

最近はIT製品に潜むセキュリティリスク対策(国家による諜報活動の一端として、バックドアが仕掛けられているおそれがある)から、特に中国企業のIT製品を回避する動きが世界で目立ってきています。

例えば、2018年4月18日の日経新聞の報道では、米連邦通信委員会(FCC)が17日、国内の通信会社に対し、安全保障上の懸念がある外国企業から通信機器を調達するのを禁じる方針を決め、対象企業は今後詰めるとされているものの、ファーウェイとZTE(こちらも中国の大手メーカー)が念頭に置かれているそうです。

同時期に、英国のサイバーセキュリティを担当する政府機関「国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)」が国内通信事業者に対し、ZTE製品を使用しないよう警告したことや、豪州政府が、ソロモン諸島を結ぶ海底インターネットケーブルの設置計画にあたり、ファーウェイ製品を使用しないようソロモン諸島に求めた、という報道もありました。

日本でも、アメリカ大使館より国内通信事業者に対し、ファーウェイ、ZTE、シャオミ製品の利用は控えるよう、「打診」という形での要請が繰り返し行われている状況にあるようです。

先進国の通信事業者向けに製品を納入している巨大グローバル企業の製品が国家レベルの諜報活動の一端を担っている可能性があるということで、コストを優先するためにグローバルで資材を調達せざるをえない現代においては、回避が困難な問題ですね。