日本弁護士連合会が国内企業15,000社を対象に行った調査をまとめた『第2回中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書』によると、「この10年の間に弁護士を利用したことがあるか」の問いに対し、半数以上の企業が「ない」と回答をしています。
弁護士を利用したことがない理由としては、「特に弁護士に相談すべき事項がない」の回答が最も多く、86.3%にも上ります。しかし、本当に 「弁護士に相談すべき事項」はないのでしょうか。
企業法務は、雇用問題や債権回収、契約書関連、社内規定の整備など、総務・人事・経理だけの領域と思われがちですが、たとえば近年は広告やキャンペーンなどの販促施策への法務チェックがなかったことにより、景品表示法の措置を受けるトラブルが増えています。
販促案は営業部やマーケティング部の担当者主導で進められることも多く、話題性を重視して内容が決定されがちですが、景品表示法に抵触する販促施策を行ったためにキャンペーン中止を余儀なくされ、課徴金が課されるなど行政処分を受けることもあり、企業の信頼性を大きく損なう事例が絶えません。
問題が起きてから弁護士に相談するのではなく、新たな事業活動を始める際に法務確認をしておくことが、トラブル回避・危機管理に繋がります。
「閉店売り尽くしキャンペーン!」「豪華オマケ付き!」 その販促キャンペーンが法に抵触する?
消費者庁が発表した『平成 29 年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組』によると、平成 29 年4月1日から平成 30 年3月 31 日までの景品表示法措置件数は前年度の2倍以上となりました。
景品表示法は、一般消費者の利益を保護することを目的とした法律です。具体的には、うそや大げさな表現で誤解させたり、過大な景品の提供で射幸心を煽るなどして、消費者の自主的・合理的な選択ができなくなってしまうようなケースを防止しています。
では、“うそや大げさな表現”には、何が該当するでしょうか。
品質や規格、ブランド銘柄、原産地、効果効能などを偽ったり、大げさに言うことが不当表示であることは、一般的にも知られています。しかし近年急増しているのは『有利誤認表示』と呼ばれる、価格や期間、数量、アフターサービスなどについて、「今買うとお得!」と誤認させることです。常にその価格で販売しているにも関わらず「閉店売り尽くし」と称したり、希少性を演出するため事実に反して「10個限定」と表示するなどがこれにあたります。
次に“過大な景品の提供”とは、何が該当するでしょうか。
景品には、ポイントを集めて応募したり抽選やクイズ等で獲得する賞品、商店街などの福引き、商品の“オマケ”などがあり、種別によって景品の最高額や限度額、開催期間などの上限が定められています。
こうした法的観点なく、「個数限定をうたって宣伝しよう!」「豪華なオマケで話題にしよう!」と気軽にキャンペーンを実施すると、法に抵触し、措置や課徴金納付の処分を受けたり、何より企業の信頼度が低下するなど、多大なペナルティを受けることとなります。
過去に処分を受けた会社には、大手企業も多数含まれており、そもそもこうした販促事案を「弁護士に相談すべき事項」だと思わなかったことが伺えます。
問題が起きてからでは遅い、トラブルを防止するために弁護士の活用を
景品表示法をはじめとした法律は、その時々の社会の実態によってルールが変わります。また、アプリゲームの課金やアイドル商法など、新しく生まれたビジネスモデルには、まだはっきりした解釈が定まっていない場合もあります。
冒頭に引用した通り、多くの企業が回答している「特に弁護士に相談すべき事項がない」という判断は、果たして本当にそうなのでしょうか。企業が一度失った信用を回復するのは、非常に難しいことです。一般に、弁護士への相談は問題が起きた後になりがちですが、ビジネスシーンにおいては問題が起きないための“防止”として、法務相談を行うことが必要です。
インターネットやSNSの普及で、企業のミスはあっという間に拡散され、取り返しのつかない炎上を引き起こすことも多い昨今です。「法務に関係すると知らなかった」では済まない事態を回避するためにも、企業が法務サービスを積極的に活用することを心から願っています。