一時期、ステマが社会問題になりました。念のため解説すると、ステマとは、ステルスマーケティングの略で、SNS・ブログ・口コミサイト上でやらせ・サクラをする、ズルいマーケティング手法です。数年前は手を出す企業が後を絶ちませんでしたが、炎上事件が相次いだためか、最近は目立ったステマは減ってきているようです。

 でもこのステマ、炎上リスクは置いておいて、やること自体で、何か法律に違反するものなのでしょうか?

 実は意外なことに、日本では、「ステマそのもの」を規制する法律はないのです。これがアメリカですと、広告主が、報酬(金銭や無料サービス)を提供して、ブロガーなどに対し、商品を褒める記事を書くよう要請する場合は、報酬提供の事実をきちんと開示しないと、「FTC法」第5条の「欺瞞的な行為又は慣行」に当たり、違法になってしまうんですがね。

 では、日本ではステマがやり放題なのかというと、そういうわけではありません。「景品表示法」という、広告全般を規制する法律は、適用されます(ステマも、結局は「広告」なので)。

 景品表示法では、広告全般について、「優良誤認表示」や、「有利誤認表示」を禁止しています。

 「優良誤認表示」とは、商品の品質や性能について、実際よりも「著しく優良」だと誤解させる表示です。例えば、実際は海外産の低品質肉を使っているのに、「最高品質和牛を使っています!」と表示することです。

 一方、「有利誤認表示」とは、商品の価格や取引条件について、実際よりも「著しく有利」だと誤解させる表示です。例えば、実際は相場よりもむしろ高いのに、「業界最安値を実現!」と表示することです

 イマイチ違いがわからないかもしれませんが、ようは、「著しい」誇大広告は禁止、ということです。この「著しい」というのがミソでして、営業トークというものは、多少なりとも大げさになることは当り前で、消費者側も、それを割り引いた上で聞いています。そのため、「著しい」ものでなければ、違法とまではならないのですね。

 というわけで、ステマで「優良誤認表示」や、「有利誤認表示」をやると、景品表示法に違反するわけです。

 でも、これって逆にいえば、景品表示法に違反せずにステマをやることは不可能ではないのです。というわけで、景品表示法に違反するかしないか、ステマの限界点を探って行きたいと思います。

 それでは、まずは以下のケースを検討してみましょう。

 某セキュリティーソフト開発企業が、某セキュリティー専門家(セキュリティーの分野では著名な方です。)に対し、自社製品の「ポジティブな評判形成」への協力を依頼したとします。ちなみにこれ、以前に実際にあった話です。その専門家が、ネット上でその依頼メールを公開して、大炎上したのでした。

 でも、もしその専門家が、協力に応じて、その会社の指示した原稿のとおり、以下のような提灯記事をブログにアップしたらどうでしょうか。

「A社のXというソフトを使ってみましたが、①と②の機能が優れていますね。私は好きです。」

 もしそのソフトが、確かに①と②の機能は優れているものの、他の機能はパッとしなくて、総合評価としては、平凡なソフトだった場合。これだと、記事の内容が、「著しい」かどうか以前に、そもそも誇張がないので、「優良誤認表示」には当たらないでしょう。前半は事実ですし、後半は個人的な感情ですから。

 ただ、この記事を見た人で、その専門家を知っている人は、「あの人がこう言っているのだから、きっと良いソフトだろう。」と考えるでしょう。そして、そのソフトを買って、「悪くはないけど、ちょっと期待外れかな。」と感じると思います。このやり方は、ほめられたものではないですね。

 それでは、もしそのソフトが、確かに①と②の機能は悪くはないものの、別にそこまでは優れていなくて、しかも他の機能に問題があって、総合評価としては、下の方のソフトだった場合。

 これだと、記事の内容は、誇張と言えそうに思えますが、「著しい」とまで言うのは、難しいと思います。でも、このやり方は、やはり問題ですよね。

 このように、「著しい」の要件がネックになって、ステルスマーケティングは、景品表示法違反にはなりにくいのです。

 ですが、ステルスマーケティングの本質的な問題は、それが広告の形を取らず、まるで客観的な感想、率直な意見かのように装っているため、見た人が鵜呑みにしかねない、ということです。そのため、誇張の度合いが「著しい」とまでは言えなくても、商品選択の自由意志に与える影響は、通常の広告と比べて、大きくなります。

 「そんな状況を放置しておいて良いのか!?」と皆さん思いますよね。もちろん、行政も手をこまねいているわけではありません。消費者問題を取り扱う消費者庁は、最近になって、ステルスマーケティングに対して、厳しい姿勢を示したのです。

消費者庁のステマ規制は不十分?

 消費者庁は平成23年10月、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表しました(平成24年5月に一部改定)。

 その中で消費者庁は、最近ステマが社会問題になっていることを指摘した上で、景品表示法違反が問題になるステマの具体例を、3つ挙げています。その中身は、以下のとおりです。

(一番目の事例)

「グルメサイトのクチコミ情報コーナーにおいて、飲食店を経営する事業者が、自らの飲食店で提供している料理について、実際には地鶏を使用していないにもかかわらず、「このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!」と、自らの飲食店についての「クチコミ」情報として、料理にあたかも地鶏を使用しているかのように表示すること」

(二番目の事例)

「商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、クチコミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトのクチコミ情報コーナーにクチコミを多数書き込ませ、クチコミサイト上の評価自体を変動させて、もともとクチコミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること」

(三番目の事例)

「広告主が、(ブログ事業者を通じて)ブロガーに広告主が供給する商品・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受けたブロガーをして、十分な根拠がないにもかかわらず、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」と表示させること」

 うーん、これだけですか?これってようするに、ステマ自体が景品表示法に違反すると言っているのではなく、ステマが、「優良誤認表示」や「有利誤認表示」に当たる場合は、景品表示法に違反するという、当たり前のことを言っているだけなような。

 ですがこれでは、ステマの「本質的な問題」に対応できていませんよね。上で解説したとおり、景品表示法で禁止される不当表示は、その誇張の度合いが「著しい」ものです。そして、上に挙げた三つの例は、まさに誇張の度合いが「著しい」ものです。一番目の事例は嘘っぱちですし、二弁目の事例は多数の書き込みで評価をかなり変動させている場合、三番目の事例は根拠なしです。

 でも、上で例に出したセキュリティ専門家のケースのように、「著しい」とまでは言えない提灯記事を書いてもらったとしても、ステマは、消費者の商品選択の自由意志に、重大な影響を与えます。結局のところ、景品表示法が作られた当時は、ステマという手法が広まっていなかったので、景品表示法の構造が、ステマの問題に対応できていないのです。

 それでは、ステマはこのまま野放しになってしまうのでしょうか?いえ、そんなことはありません。既に諸外国は、ステマに対する規制に乗り出しています。

海外のステマ規制は進んでいる

 それでは、諸外国は、ステマに対して、具体的にどのように規制をしているのでしょうか。

 アメリカでは、連邦取引委員会(FTC)が、2009年12月に、「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」というものを公表しています。この中で、FTCは、事業者から推奨者(著名人やブロガー)に対して、商品・サービスの無償での提供や、記事掲載への対価を支払うなど、事業者と推奨者との間に「重大なつながり」があった場合について、推奨表現の中で虚偽・裏付けのない表現をしたり、事業者と推奨者との関係を開示しなかった場合には、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当たり、事業者は法的責任を負う、と指摘しています。

 また、イギリスでは、2008年5月に、「不公正取引から消費者を保護するための法律」が施行されていますが、その中には、上記のアメリカと同様の規制があるだけでなく、事業者が消費者であるかのように振る舞うこと(サクラ投稿など)自体も、禁止されています。

 このように、先進国では、ステマは規制する流れになっているのです。私も、消費者の自由意志による商品選択を害するステマという広告手法は、規制すべきだと考えています。そのためには、アメリカやイギリスの取り組みを参考にして、消費者庁が、「事業者が、推奨者との関係を明らかにせずに推奨記事を書かせた場合や、消費者を装って書き込みをした場合は、それ自体が不当表示に当たる。」という、これまでよりも踏み込んだ解釈を示すか、あるいは、景品表示法を改正して、このような行為を禁止すべきだと思います。

 ステマは、一度発覚すれば、ネットで大炎上して、取り返しの付かない事態になります。賢明な本記事の読者の皆様は、安易にステマに手を出すことのないように、気をつけてください。

ペニーオークション詐欺事件

 ちょうど本記事を執筆しているタイミング(注:2013年12月)に、ステマが大変なニュースになっています。

 皆さんもニュースで知っているかと思いますが、ペニーオークションの詐欺事件で、大勢の芸能人が詐欺サイトのステマに協力していたことが発覚して、大問題になっています。一応解説すると、今回、詐欺罪で逮捕者まで出た「ワールドオークション」というサイトは、ペニーオークション(手数料を払って入札するオークション)方式のサイトです。

 運営者側としては、多くの参加者が手数料を払って入札してくれれば、儲かる仕組みになっています。そこに目をつけたワールドオークションの運営者は、サクラを使って、魅力的な商品を安い金額で出品した上で、参加者が入札するたびに必ず高値を更新するサクラや、自動更新プログラム「ボット」を利用して、正規の参加者が落札できない仕組みにして、手数料を騙し取っていたわけです。ようは、縁日にある綱引きクジのようなものです。ファミコンに繋がっている綱は、存在しないのです。

 これは悪質な詐欺行為なので、ワールドオークションの運営者達は、詐欺罪で逮捕されることになりました。そして、大勢の芸能人が、ワールドオークションや、運営者が同じ別のオークションサイトについて、実際はそのサイトで商品を落札なんてしてないのに、報酬をもらって、「このサイトで安く商品を落札できました!」というウソの日記をブログに書いて、ステマに協力していたことが発覚したわけです。

 そこで今回、ペニーオークションサイト詐欺事件のステマに協力した芸能人がどんな法的責任を負う可能性があるのかについて、解説したいと思います。

1.前提として、ワールドオークションの運営者は、どんな法的責任を負うの?

(1)ステマは法律に違反するの?

 上で解説したとおり、「ステマそのもの」を規制する法律はありません。ただ、ステマが問題になる法律はあります。それは、「景品表示法」という、不当な広告の表示を規制する法律です。

 景品表示法では、

  1. 実際よりも、商品の内容が、著しく優良かのように装う表示(優良誤認表示)
  2. 実際よりも、商品の取引条件が、著しく有利かのように装う表示(有利誤認表示)

の、二つが禁止されています。ようは、「著しく」誇張された広告はダメ、ということです。

 なぜ、単なる誇張ではなく、「著しい」誇張だけが禁止されているかというと、一般的に、広告というのは、オーバーな表現になりがちですし、消費者もその点を理解して、割り引いて受け取めているので、悪質性の高い(=著しい)ものだけを規制するのが現実的だからです。

 そして、ステマも、景品表示法が適用される「広告」に当たります(広告であることは隠していますが、実態は広告なので)。そのため、ステマで「著しい」誇張をやると、景品表示法に違反するのです。

(2)景品表示法に違反すると、どうなるの?

 まずは、消費者庁から、「措置命令」というのが来ます。不当な広告表示を止めなさい、という命令です。その命令を出す時に、消費者庁は、マスコミに対して公表したりもします。

 この措置命令にきちんと従えば、それでひとまず、景品表示法の問題は解決します。しかし、この措置命令に従わないと、なんと刑事罰が待っています。景品表示法は、措置命令に従わなかった者に対して、「二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する」と定めているのです。

(3)今回のステマは、景品表示法に違反するの?

 おそらく、違反します。

  消費者問題を取り扱う消費者庁が公表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の中で、消費者庁は、ステマが景品表示法に違反する例をいくつか挙げています。

(事例)

「広告主が、(ブログ事業者を通じて)ブロガーに広告主が供給する商品・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受けたブロガーをして、十分な根拠がないにもかかわらず、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」と表示させること」

 この事例なんて、まさに、本件と近い(というより、本件よりもまだマシな)事例ですよね。

 ちなみに、「おそらく」という留保を付けたのは、現時点では、芸能人に報酬を支払ったのが、ワールドオークションの運営者側の人間なのか、はっきりしないからです(まぁ、多分そうだとは思いますが・・・)。

(4)ワールドオークションの運営者は、景品表示法で処罰されるの?

 いえ、景品表示法では処罰されません。というのは、本件でワールドオークションのやったことは、景品表示法違反(著しい誇張広告)なんてレベルではなく、詐欺罪(お金を騙し取る犯罪行為。刑法で処罰されます)まで行ってしまっているからです。

 詐欺罪は、「10年以下の懲役に処する」とされていて、景品表示法違反なんかよりも、ずっと重い刑になっています。そして今回、ワールドオークションの運営者は、詐欺罪で逮捕されているので、詐欺罪で処罰されることになります。

(5)ワールドオークションの運営者は、損害賠償の責任は負うの?

 負います。民法は、悪いことをした者に対して、「不法行為責任」という責任を定めています。これは、悪いことをした者は、それによって被害を受けた者に対して、金銭で賠償をしなければならない、という責任です。

 ワールドオークションの運営者は、詐欺罪で処罰されるだけでなく、民法の不法行為責任によって、大勢の被害者に対して、損害賠償の責任を負い、被害額を賠償しなければなりません。

2.ステマに協力した芸能人は、どんな責任を負うの?

(1)詐欺罪になるの?

 それはないと思います。詐欺罪の共犯になるためには、詐欺であることを分かった上で、協力する意志(故意)がないといけません。さすがに、芸能人が、詐欺の片棒を担いでまでステマはしないでしょう(そう信じたいところです)。

(2)景品表示法違反になるの?

 いえ、芸能人は、景品表示法違反にはなりません。景品表示法の責任を負うのは、あくまでも、広告対象の商品・サービスを提供している事業者です。つまり、今回の事件で言えば、ワールドオークションの運営者です。ステマに協力した芸能人自身には、景品表示法は適用されないので、彼らは、景品表示法違反にはならないのです。

(3)不法行為責任で、損害賠償の責任は負わないの?

 責任を負う可能性は、低いと思います。

 確かに、不法行為責任は、「故意」か「過失」があれば成立するので、「故意」が必要な詐欺罪よりかは、成立しやすいのです。そうは言っても、ワールドオークションが詐欺サイトかどうかは、少なくとも今回逮捕者が出るまでは、公には知られていなかったわけですし、芸能人の所には、わりと名の知れた企業からも日常的にステマの依頼が来るようなので(苦笑)、ステマの依頼を安易に受けてしまう面もあると思います。

 もちろん、ステマに協力した点や、どんなサイトかきちんと確認しなかった点は、道義的には、責められるとは思います。ただ、不法行為責任を負うだけの「過失」があったというと、簡単には認められないと思います。

3.まとめ

 というわけで、今回の事件ですが、芸能人が法的責任を負う可能性は、低いです。ですが、芸能人のブログを読んで、ワールドオークションに手を出して、手数料をだまし取られたファンは、少なからずいると思います。

 今回問題になった芸能人の皆さんには、自分たちのせいで詐欺の被害者が出てしまったという事実を、しっかりと噛み締めて、二度とステマなんかに協力しないようにしてもらいたいものです。