いきなりですが、皆さんの会社が提供するサービス、受託する業務、販売するソフトに関する契約書や利用規約に、損害賠償の責任を制限する条項はありますか?「いったいなんのこと?」と思われたら、ビジネスで必須の「リスク管理」ができていないということです。それは非常にまずいですよ。

 たとえば、クラウドサービスで考えてみてください。もし皆さんの会社が提供しているクラウドサービスに障害が発生して、ユーザーが長期間ログインできなかったり、ユーザーのデータが消失したりするとします。そうなれば、ユーザーとしては、発生した損害を補償してもらうべく、損害賠償を請求してくる可能性が高いでしょう。そして、もし全ユーザーから損害賠償を請求される事態になれば、会社が賠償する損害の累積総額は、莫大なものになってしまいます。

 あるいは、システム開発で考えてみてください。もし皆さんの会社が受託した開発案件で、重大なバグに気づかず納品してしまい、本稼働後にバグが顕在化して、ユーザーの業務が止まってしまった場合。基幹業務のシステムでこんな事態が発生すれば、ユーザーには大変な損害が発生します。やはり、会社が賠償する金額は、高額なものになってしまいます。

 このように、サービスの提供者であったり、業務の受託者であったり、ソフトのライセンサーであったりする場合、契約書や利用規約の中で、損害賠償の責任を制限する条項を設けていないと、いざというとき(損害賠償の責任を負う場合)にノーガードになってしまい、会社のキャッシュが枯渇するような金額の損害賠償を請求されてしまう可能性があるのです。

 特に中小企業では、潤沢なキャッシュがあるわけではないので、キャッシュが逆回転するような事態が一度でも生じれば、その瞬間に事業がストップしてしまうおそれがあります。

 どうでしょう。損害賠償の責任を制限する条項が、ビジネス上のリスク管理としていかに重要か、わかりましたでしょうか。では、「それくらいわかっていたよ」と思われた皆さん、果たしてその理解は、本当に正確なものでしょうか?実はとんでもない「勘違い」をしていて、無効な条項を設けているのかもしれませんよ。

 というわけで今回は、重要だけど、意外と皆さん正確に理解していない、損害賠償責任を制限する条項の役割や有効性について、徹底解説したいと思います。

損害賠償は債務不履行責任の一つ

 まず、そもそも法律の原則で、クラウドサービスの事業者やシステム開発会社は、どのような場合に、どのような範囲で、損害賠償責任を負うのでしょうか。

 法律上、契約の当事者は「債務」を負います。債務とは、契約で定められた、やるべき義務のことです。

 クラウドサービス利用契約では、クラウド事業者は、クラウドサービスを提供する債務を負いますし、ユーザーは、代金を支払う債務や、利用条件に従う債務を負います。システム開発契約では、ベンダーは、システムを開発する債務を負いますし、顧客は、代金を支払う債務や、要望を取りまとめて提示する債務を負います。

 これらの債務を履行しない当事者は、「債務不履行責任」を負います。

 債務不履行責任を負う当事者に対して、相手方は、きちんと履行をするよう請求したり、契約を解除したり、損害賠償を請求したりすることができます。このように、損害賠償というのは、債務不履行責任の一内容なわけですね。

 では、具体的にどのような場合に、この債務不履行責任を負うのかというと、

  1. 債務者の責めに帰すべき事由によって(帰責性)
  2. 期限が遅れた(履行遅滞)/不十分な履行だった(不完全履行)/履行が不能になった(履行不能)
  3. その結果として損害が発生した(因果関係)

 この3つの要件を満たす場合に、債務不履行責任を負います。「契約に違反したから債務不履行責任だ」というような、単純な話ではないのですね。

 さて、この3つの要件の内、特に重要な、そしてその存否が争いになりやすい「責めに帰すべき事由」(帰責性)について、具体的に解説をします。

どんな場合に責めに帰すべき事由が認められるのか

 まず、責めに帰すべき事由は、「故意又は過失」がある場合に認定されます。

 この「故意」とは、法律用語で、「自分の行為が一定の結果を生じさせることについて、予見していたにも拘らず、行為を実行した」という意味です。

 よく誤解されるのですが、「わざと」という意味ではありません。たとえば、テスト段階でエラーが生じていたのに、それを(バレなければいいなと)隠して納品して、検査では気付かれずに合格するも、本稼働後にエラーが発生した場合は、故意があるといえます。

 次に「過失」とは、法律用語で、「自分の行為が一定の結果を生じさせることについて、予見が可能であったにも拘らず、注意を怠って予見しなかった。」「自分の行為から一定の結果が生じることを回避可能であったにもかかわらず、回避するための行動を怠った」という意味です。

 たとえば、テストをテスト仕様書通りに完全に行なわずに、普段あまり問題が生じないような細かい部分を省略した結果、エラーを見過ごし、本稼働後にエラーが発生した場合は、過失があるといえます。

 このように、債務者に故意又は過失がある場合に、「責めに帰すべき事由」(帰責性)が認定され、残りの2つの要件(履行遅滞or不完全履行or履行不能と因果関係)も満たす場合に、債務不履行責任として損害賠償義務を負うのです。

 ちなみに、「不可抗力免責」という言葉がありますが、「不可抗力」で生じた損害には、「責めに帰すべき事由」(帰責性)がありません。そのため、「免責」(=責任を免除)するまでもなく、そもそも責任を負わないのですね。契約書の「不可抗力免責」の規定は、法律の原則からすると当たり前のことを確認しただけのものになります。

どこまで損害を賠償しないといけないのか

 では、債務不履行責任として損害賠償義務を負う場合に、どの程度の範囲までの損害を賠償しなければならないのでしょうか。

 まず、損害賠償について、法律にはこう書いてあります。

民法第416条(損害賠償の範囲)

1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

・・・うーん、回りくどくて、何を言っているのかよくわからない。この条文の構造は、一般的にはこのようにシンプルに整理されています。

通常損害(通常生じる損害)→賠償義務あり

特別損害(特別の事情によって生じる損害)→(原則)賠償義務なし

 (例外)その事情を予見してた又は予見可能であった場合は賠償義務あり

 例えば、ECサイトの開発案件で、制作会社の帰責事由による納品の遅れによって、サイトのオープンが予定よりも遅れた場合を考えてみて下さい。オープンが遅れた間に予想された利益は、通常生じる損害なので、制作会社は賠償義務を負います。

 一方で、その商品が、たまたまニュースで取り上げられたとして、その時点でサイトが予定通りオープンしていたら、注文が全国から殺到していた場合はどうでしょう。そこで予想された利益は、特別の事情によって生じる損害なので、制作会社は原則として賠償義務を負いません。

 ただし、その日にニュースで取り上げられることが前から決まっていて、そこに間に合うようにサイトのオープンが予定されていた場合は、制作会社はその事情を予見していたといえるので、賠償義務を負うわけですね。

 というわけでまとめると、帰責事由があったかどうかで、損害賠償責任をそもそも負うかが変わってくきますし、帰責事由があったとして、今度はその損害が通常損害か特別損害かで、賠償すべき損害の範囲は変わってくるのですね。

損害賠償責任の制限は、必要な場合と不要な場合がある

 では次に、この損害賠償義務が、債務者(ベンダー、クラウド事業者、制作会社など)にとって、どれだけ重大なリスクなのかについて、解説をします。

 例えば、開発された基幹システムや、重要な業務で利用されているクラウドサービスで、システム障害が起きた場合を考えてみてください。この場合、ユーザーの業務がストップすることになり、その間にユーザーに生じる逸失利益や、対応に要した人員の人件費など、かなりの金額になります。ましてや、データ消失でも起きた日には大損害になります。それこそ、委託料や利用料を上回るような損害賠償額になることも、珍しくありません。

 また、「特別損害」についても、上で例に挙げたECサイトの開発案件の納期遅れであれば、「いついつにニュースで取り上げられる予定で、その日にアクセスが殺到することは確実なので、絶対その日までに完成させるように。」とユーザーから釘を差されていると、ベンダーは特別の事情を予見していたことになり、予想された利益が賠償の対象となってしまいます。

 そのため、損害賠償を請求される立場にある債務者の場合、損害賠償責任を制限する条項は重要になります。逆に、損害賠償を請求する立場にある債権者の場合、そのような条項があると十分な補償を受けられなくなるので、そのような条項を設けてはいけません。

 というわけで、契約を結ぶ際は、自社がどちらの立場か把握しないといけませんが、残念ながら、これができていない企業が多いのですね。

 私の主な業務の一つに「契約書のチェック」がありますが、損害賠償を請求する債権者の立場、つまり、システム開発契約の発注者であったり、クラウドサービス利用契約の利用者であったり、業務委託契約の委託者であったり、売買契約の買主であったり、そのような立場のクライアントから、損害賠償責任を制限する条項が入った契約書のチェックを依頼されることがよくあります(取引先から示されたものではなく、自社内で作成したものです)。なぜそのような条項を入れているのか聞くと、皆さん「なんとなくそういうものだと思っていたから」と答えるのですね…。

 皆さん、契約を結ぶ際は、自社がどちらの立場かきちんと把握して、損害賠償責任を制限する必要があるかないか、そのような条項が契約書にあるかないかを検討しましょう!

故意・重過失の場合に損害賠償責任を負う=損害賠償責任は(事実上)負わない?

 では次に、取引契約の実務では、具体的にどのような責任制限規定があり、そしてそれらは法的に有効なのかについて、解説をしましょう。

 まずよくあるのが、次のような損害賠償の発生要件を制限する規定です。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、故意又は重過失のある場合に限り、相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。」

⇒故意・重過失がある場合にのみ損害を賠償する

 上で説明したとおり、故意というのは、「自分の行為が一定の結果を生じさせることを予見していた」という意味です(わざとという意味ではありません)。たとえば、テスト段階でエラーが生じていたのに、それを隠して納品して、検査では気付かれずに合格するも、本稼働後にエラーが発生した場合は、故意があります。

 では、重過失というのはどういう意味かというと、故意と同視できるような重大な過失です。今の例で言うと、テストをサボって、一切テストを実施していないにも拘らず、テストを実施した、問題なかったと報告した場合は、エラーが出ていたことは予見していないので、故意はありませんが、嘘の報告をしているので、故意と同視できるような重大な過失といえるでしょう。

 ちなみに、過失の内訳として、重過失と、重過失に至らない軽過失の、2つしかありません(この2つを合わせて過失といいます。「中過失」という言葉はない点に注意してください)。

 さて、先ほど挙げた例からもわかるとおり、普通のきちんとした企業がビジネスをやる中で、故意・重過失が生じることは、通常ありません。つまり、故意・重過失がある場合にのみ損害賠償責任を負うという規定は、事実上、「ほぼ損害賠償責任を負わない」に等しいのです。そして、裁判例上、BtoBの取引に関しては、そのような規定も有効であると判断されています(ジェイコム株誤発注事件の東京高裁判決等)。

 というわけで、過失の前に「重」の一文字を加えるだけで、損害賠償の発生要件が大きく制限されることになることは、理解できましたでしょうか。

 

通常損害と特別損害は何が違うのか

 それでは次に、損害賠償の項目を制限する規定について解説したいと思います。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に生じた通常の損害を賠償する責任を負うものとし、特別損害については、その予見可能性の有無を問わず、賠償する責任を負わないものとする。」

⇒ 通常損害のみ賠償し、特別損害は賠償しない

 上で解説したとおり、通常損害とは、その債務不履行があった場合に通常生じる損害で、特別損害とは、特別の事情によって生じる損害です。

 例えばECサイトの開発案件で、納期遅れによってサイトのオープンが遅れた場合、その遅れた間に予想された利益は通常損害になりますが、その商品がたまたまニュースで取り上げられたとして、その時点でサイトが予定通りオープンしていたら、注文が全国から殺到していた場合、それで予想された利益は特別損害になります。

 通常損害は、損害賠償義務があり、特別損害は、その特別の事情が予見可能であった場合に限り、損害賠償義務があるわけですが、上で挙げた規定は、予見が可能であったかどうかに関係なく、損害賠償義務を無しにしてしまうわけです。

 これは一見すると効果的な規定のようですが、実のところ、これにどこまで効果があるか微妙なところです。というのは、通常損害と特別損害の区別は、非常に難しいのですね。

 例えば、予約発券管理システムで考えてみてください。システム障害で稼働しなかったことで生じる損害といえば、手作業切り替えによに生じる人件費追加負担や、販売機会の喪失(逸失利益)、影響を受けた顧客からのクレーム処理などでしょうが、これらの損害の内、どこまでが通常の損害で、どこからが特別の損害でしょうか。

 実際の裁判でも、何が通常損害で、何が特別損害なのか、議論になることが多いです。そのため、単に特別損害を損害賠償の対象から省くだけでは、そこまで有効性が高い規定とはいえません。

 そこで、この規定の有効性を高めるための一工夫が必要になるのです。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に生じた通常の損害を賠償する責任を負うものとし、逸失利益を含む特別損害については、その予見可能性の有無を問わず、賠償する責任を負わないものとする。」

⇒通常損害のみ賠償し、逸失利益を含む特別損害は賠償しない

 上の規定は、(その意味する所が明確でない)特別損害の内容に、逸失利益を含ませています。逸失利益とは、そのトラブルがなければ生じるはずだった(しかしトラブルによって逸失した)利益のことをいいます。逸失利益は予想外に高額になりがちですが、上の規定なら、そんな逸失利益を損害賠償の範囲から省くことができるので、損害賠償の範囲をかなり抑えるができます。

 勘違いしてはいけないのは、「逸失利益=特別損害」ではない、ということです。逸失利益と言えども、それが通常生じる損害なら、本来であれば通常損害に該当しますので、注意して下さい。

外資系企業の契約書によくある規定

 ところで、こんな規定は見たことがありますか?外資系企業と契約書を取り交わすと、こういった規定を目にすることがあるのですね。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に現実かつ直接に生じた通常の損害を賠償する責任を負うものとし、特別損害、派生的若しくは付随的損害、間接的損害又は結果的損害については、その予見可能性の有無を問わず、賠償する責任を負わないものとする」

⇒現実かつ直接に生じた通常損害のみ賠償し、特別損害、派生的若しくは付随的損害、間接的損害又は結果的損害は賠償しない

 「現実損害」「直接損害」「派生的若しくは付随的損害」「間接的損害」「結果的損害」。なんだか聞き慣れない色々な用語が出てきましたね。このような規定は、法的に有効かどうか以前に、そもそも有益か疑問です。

 これらの種類の損害は、外国から輸入された法概念であって、日本の法令用語ではありません。日本の法令用語としてあるのは、通常損害と特別損害だけです(逸失利益は、法令用語ではないにせよ、ある程度解釈が固まっている概念です。)。

 それ以外の種類の損害は、意味するところが不明なので、このような規定を設けたところで、どう役に立つのか疑問なところです。英文契約書をそのまま翻訳すると、こういう、日本の法令用語的に意味のよくわからない表現が出てくるのですね。

損害賠償の金額を制限する様々なバリエーション

 それでは、次はいよいよ損害賠償の「金額」を制限する規定を解説します。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。なお、賠償すべき損害の金額は、本契約に係る対価相当額を限度とする。」

⇒対価を限度として賠償する

 まずはシンプルに、対価(委託料や利用料など)を上限とするものです。では、受注者やサービス提供者の立場から、これで十分だと思われますか?

 単発の案件の受注なり、クラウドサービスの利用契約なら、これで十分かもしれませんが、案件全体の対価が高額になりがちなシステム開発契約などでは、もっと金額を抑える方法があります。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。なお、賠償すべき損害の金額は、帰責事由の原因となった個別契約に係る対価相当額を限度とする。」

⇒個別契約の対価を限度として賠償する

 システム開発やコンサルティングなどで各フェーズごとに個別契約を結ぶ(いわゆる多段階契約方式の)基本契約と組み合わせれば、案件全体の対価を上限とする場合と比べて、低額な損害賠償で済ますことができます。

 ですが、これよりもっと金額を抑える方法があるのですね。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。なお、賠償すべき損害の金額は、帰責事由の原因となった個別契約に関して、現実に支払済みの対価相当額を限度とする。」

⇒個別契約の対価の内、現実に支払われた額を限度として賠償する

 現実に支払われた対価を上限とすれば、未払いの段階で損害賠償を請求された場合、ゼロになるのです。随分と一方的な規定だと思った方もいるかもしれませんが、実際にこういった条項の入った契約書はよく目にします。

 というわけで、これまでの記事で、発生要件の制限、賠償項目の制限、賠償金額の制限について解説してきましたが、これらを全部セットにした場合、いったいどんな規定になるのでしょうか。はたして、そんな規定は法的に有効でしょうか。

最強の損害賠償責任制限条項

 それでは、いよいよ今回の記事のまとめに入ります。

 まずは、これまで解説した全ての、損害賠償を制限する規定(発生要件の制限、賠償項目の制限、賠償金額の制限)を盛り込んだ規定です。

「甲又は乙は、本契約に定める義務に違反した場合、故意又は重過失のある場合に限り、損害賠償責任を負うものとする。なお、賠償すべき損害の範囲は、相手方に生じた通常の損害に限るものとし、逸失利益を含む特別損害については、その予見可能性の有無を問わず、賠償する責任を負わないものとする。また、賠償すべき損害の金額は、帰責事由の原因となった個別契約に関して、現実に支払済みの委託料相当額を限度とする。」

 ガチガチの規定ができあがりましたね。これで完璧!と思うかもしれませんが、故意・重過失がある場合についてまで、賠償項目を制限したり、賠償金額を制限したりする規定は、無効とする裁判例が多いのですね(あまりにも一方的すぎるので)。

 そのため、法律が許す範囲で、最大限損害賠償の範囲を制限するとなると、以下のような規定になります。

「甲又は乙は、その責めに帰すべき事由により、本契約に定める義務に違反した場合、損害賠償責任を負うものとする。なお、賠償すべき損害の範囲は、相手方に生じた通常の損害に限るものとし、逸失利益を含む特別損害については、その予見可能性の有無を問わず、賠償する責任を負わないものとする。また、賠償すべき損害の金額は、帰責事由の原因となった個別契約に関して、現実に支払済みの委託料相当額を限度とする。ただし、本契約に定める義務に違反した当事者に故意又は重過失がある場合は、上記損害の範囲及び金額を制限する規定は適用しない。」

 つまり、故意・重過失がある場合は制限なく賠償責任を負い、軽過失の場合は賠償項目と賠償金額を制限する、という規定です。そしてこのタイプの規定が、受注側・サービス提供側が示してくる契約書の中で、実務的に一番良く目にします。

 いかがでしたか。損害賠償の規定は、ちょっとした文言の違いで、責任が大幅に制限されることもあれば、ほとんど制限されないこともあり、また、そもそも法的に無効になることがあることが、理解できたでしょうか。

 損害賠償の規定は、発注・受注・委託・受託・買主・売主、どちらの立場からも非常に重要なものです。今回の記事は、かなり長く、そして難しかったかもしれませんが、これを理解しておけば、損害賠償の規定のチェックはかなり精度高くできるようになるので、ぜひ繰り返し読んで、内容を理解してください!