ラトビアのシードファンド「CHANGE VNETURES」でマネージングパートナーをしているAndrisさんから、ラトビアのスタートアップのエコシステムについてお話を聞きました。

ラトビアのスタートアップのエコシステムは日本のそれとは全然違い、オープンでシェア、グローバル展開とバイアウトが当然の前提でした。

 

・ラトビアのスタートアップの特徴として、始めからグローバルマーケットを狙っている、IPOではなくバイアウトを狙っている、登記はイギリスやアメリカだがオフィス機能はラトビア、スタートアップエコシステムが発達、ニッチを攻める低コストなサービスを展開、オープンでフェアでシェアの文化、といった点がある

始めからグローバルマーケットを狙っている

・人口わずか200万人弱のラトビア国内のマーケットでは儲からない

・英語が話せる人が多いし、EU加盟国なのでEU域内でビジネスがしやすい

・まずはEU、次にアメリカ、さらには全世界がマーケット

・英語でサービス展開。「ラトビア発祥」なんて前面に出さない。顧客だってどの国の会社かなんて気にしないし

・対外的なやり取りも英語。社員も皆英語が話せるし、スタートアップだと人数が少ないので、海外担当的なポジションはなくて、当然に皆グローバルの案件を対応

・例えば、ラトビアの「Nordigen」はフィンテックのスタートアップ。貸付のスコアリングサービスを提供。銀行や金融機関が顧客。貸付を行う際は、用紙にいろいろ記入して、それを担当者がチェックして貸付の可否や金額を検討しているのがこれまでのやり方だけど、それを自動化して、貸付の可否を5秒で判断できる。貸し付ける側としては、検討に要する時間が激減するし、承認率も上がるし、デフォルト率も下がる。まだアーリーステージだが、ヨーロッパと、日本以外のアジアの15カ国に顧客がある

IPOではなくバイアウトを狙っている

・国内でIPOしても、ろくに資金調達できない

・そもそもIPOって内部監査とかいろいろ面倒。そういう面倒が嫌で起業したのに。しかもドカンとバリュエーションはつかない

・だったら、グローバルの大企業にバイアウトした方が手っ取り早い。複数の会社に競わせれば買収価格も釣り上がるし、優秀なCEOなら、将来価値を見据えて圧倒的な買収価格を提示してくれる

・IPOで何年もかけるよりは、とっととバイアウトしてまた新たに起業したい

登記はイギリスやアメリカだがオフィス機能はラトビア

・EU(特にイギリス)のVCから資金調達を受けるためにはロンドンに登記が必要だから、まずはロンドンに登記

・アメリカのVCから資金調達を受ける際は、デラウェア州に登記があると税制上有利だから、デラウェア州にも登記

・だけど、オフィス機能はラトビア。人件費も生活コストも安いので。ITビジネスなら、働く場所に関係なくグローバルに展開できる

ニッチを攻める低コストなサービスを展開

・巨大なグローバル企業と真正面から戦っても勝てない。だからニッチを攻める

・例えば、ラトビアではドローンのスタートアップが色々ある。スポーツの試合を自動追跡して撮影するドローンとか、風力発電機のタービンを清掃するドローンとか、重い荷物の運搬をするドローンとか。世界シェアNo1のDJIには勝てないから、ニッチを攻める

・アメリカのスタートアップのように、専用機(ハードウェア)は開発せず、市販品で済ます。ハードウェアを製造する予算もないし、専用機でロックインするのではなく、オープンにやろうよ

・例えば、隣国のリトアニアの通訳スタートアップは、複数の言語での同時通訳が必要な国際会議や展示会で(ヨーロッパでは多い)、スマホにアプリをダウンロードして言語を選択すれば、スマホのイヤホンから同時通訳を聞ける(専用ヘッドセットを事前に人数分用意して言語ごとにチャンネル合わせをする必要がない)

スタートアップエコシステムが発達

・skypeはエストニアが発祥。skypeのメンバーの多くがその後起業家になり、シリコンバレーの「PayPalマフィア」のような「skypeマフィア」のネットワークがある

・政府、大学、コワーキングスペース、投資家、スタートアップがコミュニティでつながっている。政府主催の大規模な投資家コミュニティもあるし、コワーキングスペースではしょっちゅうスタートアップ向けのイベントが開催されている

・オープンでフェアでシェアの文化が発達している。成功したスタートアップ起業家が、若い起業家にナレッジを提供したり。お互い成功事例をシェアしたり。みなニッチを攻めているので競合しない。

・だから、ラトビアではコンサル的な仕事が難しい。コミュニティに行けば、良質な情報が手に入るから

・エンジェル投資家になりたければ、投資家コミュニティはオープンでウェルカム。ただし、「Not only money, but also contributions」。ナレッジとか、人脈とか、何が貢献できるの?お金出せばいいってわけじゃないよ

 

とにかく話のスケールが大きくてワクワクしました。逆に、国内マーケットだけで十分な利益が出る日本というのは、本当に恵まれているものですね。