ユダヤ人大富豪の教えは法律違反?

 ビジネスの世界に生きる皆さんは、「どうやったら売上を上げられるだろう」ということを、いつも考えていると思います。そうは言っても、手っ取り早く売上を上げるために、法律に違反することをするつもりは、全くないと思います。

 ところが、売上を上げる手法と、法律の規制というものは、切っても切れない関係にあることを、知っていましたか?

 以前ベストセラーになった本で、「ユダヤ人大富豪の教え」という本があります。この本は、主人公が大富豪に弟子入りして、ビジネスの秘訣を学ぶというストーリーなのですが、大富豪が与えた課題の中に、「電球1000個を売ってくる」というものがありました。

 この課題、主人公がどうやってクリアしたかというと、、、、

  1. 一軒一軒、地道に訪問をする
  2. 「電球が切れていませんか?無料で交換します。電球代だけで結構です」と提案する
  3. 一人では電球の交換が難しいお年寄りから喜ばれる
  4. お年寄りに、友人を紹介してもらう
  5. ②に戻る

ということを繰り返していく内に、紹介の輪が広がって見事電球を売りさばけた、という話です。

 主人公はまさに、「電球」という商品を売るのではなく、「電球が切れて困っている」という問題を解決するサービスを売り、そこに口コミマーケティングを掛け合わせたわけです。

 とても素晴らしい、この売上を上げる手法ですが、実は、法律上の問題が隠されているのです。今回のように、家庭を訪ねてセールスを行う手法は、「訪問販売」と言われ、特定商取引法という法律で規制されています。具体的には、

  • 断った人に対する再勧誘の禁止
  • 契約内容などを記載した書面の交付義務
  • 事実に反することを伝えること、事実を伝えないことの禁止
  • 一定期間内であれば自由に解約できる(クーリングオフ)

etc…

 なぜこのような規制があるかというと、羽毛布団や住宅リフォームの訪問販売で、お年寄りが言葉巧みに契約させられて、高額な代金を払わされる被害が社会問題化したからです。先ほどの電球販売の件も、一歩間違えれば、お年寄りを騙して不要な商品を売りつける問題ビジネスになりかねませんね。

 このように、消費者保護が徹底されている今の時代、売上を上げる手法というのは、知らず知らずの内に法律に違反していることが、十分にありえるのです。そのため、新規ビジネスを始めるにあたっては、事前に弁護士に相談をしておくことが、不可欠です。

 その一方、あえて法律に違反することで、売上を上げるという手法があります。しかも最近(本記事執筆は2012年8月)、大企業がそれをやって、大きな話題になりました。その大企業ですが、何を隠そう、あの吉本興業です。

法律に違反して売上を上げた面白い恋人

 吉本興業は、「面白い恋人」という、誰がどう見ても、石屋製菓の「白い恋人」のパロディー商品を販売していました(私もお土産に貰ったことがありますが、パッケージもよく似せられていて、思わず笑っちゃいました)。それに対して先日、石屋製菓が、商標権侵害と、不正競争防止法違反を理由に、吉本興業に対して、販売差し止めや、損害賠償を求めて、裁判を起こしました。

 ここでちょっと法律を解説すると、本件で商標権侵害というのは、「商標登録」された商品名(白い恋人)と似た商品名を使われたので、商標権が侵害された、ということです。

 一方、不正競争防止法というのは、あまり馴染みがないかもしれませんが、「色々な種類のズルいビジネス」を禁止する法律です。そして、今回、不正競争防止法の「何の禁止」に違反したかというと、白い恋人という「著名な商品の表示」と似た表示をしたので、「著名表示冒用行為の禁止」に違反した、ということだと思います。

 さて、私の見立てでは、本件で商標権侵害が成立するかは、実は微妙だと思います。商標権侵害が成立するためには、消費者がオリジナルと「混同」することが必要ですが、本件は明らかなパロディー商品なので、オリジナルと「混同」する可能性が低いからです(さらに、本件は両商品の販売エリアが被らないので、より「混同」の可能性は低いです)。

 一方、不正競争防止法違反が成立する可能性は、ある程度あります。というのは、「著名表示冒用行為」と言えるためには、混同は必要なく、著名な表示と似てさえいればいいからです。

 ちょっとややこしい話をしましたが、いずれにせよ、面白い恋人が法律に違反する可能性のある商品であることは、吉本興業ほどの大企業なら、十分に理解していたはずです(法務部や顧問弁護士の意見も聞いたと思いますし)。それなのに、なぜこんな商品を販売したのでしょうか。

 これは私の勝手な推測ですが、吉本興業は、面白い恋人の発売にあたり、このように考えたのではないでしょうか。「これで白い恋人のブランド価値や売上が下がるとは思えないし、むしろ白い恋人の宣伝になるだろう」。「石屋製菓も、吉本のパロディー商品に文句を言うような、寒い真似はしてこないだろう」。「万が一文句を言ってきたら、それはそれで、話題になってオイシイ」。

 つまり、あえて法律に違反をすることで、売上を上げることを狙ったのではないでしょうか(繰り返しになりますが、あくまでも私の推測です)。

 結局、吉本興業は、石屋製菓から訴えられてしまいました。しかし、ニュースのお陰で、面白い恋人の売上は激増しているそうです。また、ニュースを見た多くの人が、「吉本は面白いなぁ」と思ったのではないでしょうか。そう考えると、吉本興業にしては、今回の裁判でかかる費用を差し引いても、十分にオイシイ結果だったのかもしれません。

 もちろん、法律に違反するビジネスはいけません。ただ、杓子定規に法律を守るのではなく、時にはグレーなところを、果敢にリスクを取って攻めることも、ビジネスの世界では、大事な場合もあると思います。