2016年4月6日に毎日新聞が、メッセンジャーアプリ大手「LINE」が、運営するパズルゲーム「LINE POP」内で使用される一部のアイテムに関して、資金決済法に抵触する疑いがあるとして、資金決済法を所管する関東財務局から、立入検査を受けたと報道して、大きな話題になりました。そして、その後の同年5月18日の毎日新聞で、LINEを立入検査していた関東財務局が、「LINE POP」内で使用されるアイテム「宝箱の鍵」に関して、「前払式支払手段」と認定した、と報道されました。

 この一連の報道を見て、「資金決済法」という法律の存在を初めて知ったIT企業の方も多かったのではないでしょうか。

 そんな皆さんは、「うちはゲームアプリなんて運営していないから、関係のない話だな。」と思っているかもしれませんが、本件、別にゲームアプリに限った話ではなく、ウェブサービスを運営している多くのIT企業に、大きく関係してくる話なのです。

 また、まさにゲームアプリを運営されている企業の方で、自社が資金決済法の問題をクリアしているのか、心配になった方もいるのではないでしょうか。

 そこで、今回の記事では、まずLINEの件で何が問題になったのか解説をし、そしてそれが、(ゲームアプリではないが)ウェブサービスを運営している多くのIT企業にどう関係してくるのか、LINEの件をどのような教訓にすべきかを、解説したいと思います。

LINEと関東財務局の見解の不一致

 LINEの件で問題になったのは、「LINE POP」内で使用されるアイテム「宝箱の鍵」が、資金決済法上の「前払式支払手段」になるのか、という論点です。では、宝箱の鍵が前払式支払手段に該当すると、LINEとしては何が困るのでしょうか。

 それは、資金決済法の定める色々な規制を受けることになるのです。その中で、今回特に問題になったのが、行政庁への「届出(登録)」と、発行保証金の「供託」の義務です。

 前者は、前払式支払手段を発行するにあたって、原則として管轄の財務局長等へ届出(登録)をしないといけない(例外として不要な場合もあり)、というものです。

 後者は、発行保証金として、原則として未使用残高の2分の1を、国家機関である供託所に提出し(供託)しなければならない(例外として不要な場合もあり)、というものです。

 LINEは、宝箱の鍵が前払式支払手段に該当しないと考えていたので、宝箱の鍵に関しては、届出もしていなかったし、供託もしていなかったのですね。

 ですが本件では、LINEと関東財務局との見解(宝箱の鍵が前払式支払手段に該当しないといえるのか)が異なっていたため、関東財務局から立入検査を受け、最終的には前払式支払手段であると認定される事態になってしまったようです。

 では、なぜLINEほどの大企業が、関東財務局と見解が一致していない事態を起こしてしまったのでしょうか。それは、前払式支払手段に該当するかどうか、その判断基準が、非常に分かりにくいからなのですね。

前払式支払手段って何?

 そこで今回、「前払式支払手段」に該当するかどうかの判断基準について、解説をします。

 前払式支払手段は、以下の3つの要件に該当するものをいいます。

  1. 金額・数量に応じた対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること
  2. 金額等の財産的価値が記載・記録されること
  3. 代価の弁済等に使用されること

 何を言っているのかイマイチわからないと思いますので(汗)、具体例を挙げますね。

(ケース1)

 「あるゲームアプリで、100円で1コインを買えて、コインを使うことでアイテムやキャラクターを入手できる」

 この場合にコインは、

  1. 金額・数量に応じた対価(100円で1コイン)を得て発行されるものであり、
  2. 財産的価値(コインの数)が(システム上で)記録され、
  3. (アイテムやキャラクターを入手するための)代価の弁済に使用されているので、

前払式支払手段に該当します。

 ここだけ聞くと、前払式支払手段に該当するか、判断しやすそうですよね。

 では、これはどうでしょうか。

(ケース2)

「コインを10個使うことで、聖なる石を1個入手できて、聖なる石を使うことで、アイテムやキャラクターを入手できる。なお、聖なる石はコインの10倍価値があり、コイン10個が必要なアイテムも、聖なる石1個で入手できる。」

 この場合に聖なる石は、

  1. 金額・数量に応じた対価(10コインで1聖なる石)を得て(※)発行されるものであり、(※「対価を得て発行」は、お金との引き替えに限られるものではなく、財産的価値のあるものとの引き換え全般を指します)
  2. 財産的価値(聖なる石の数)が(システム上で)記録され、
  3. (アイテムやキャラクターを入手するための)代価の弁済に使用されているので、

やはり前払式支払手段に該当します。

 では、これはどうでしょうか。

(ケース3)

「コインを10個使うことで、聖なる剣を1個入手できて、聖なる剣は攻撃力+100のステータス変更がある」

 この場合に聖なる剣は、3番目の要件を満たさないので、前払式支払手段に該当しませんよね。攻撃力が+100というのは、アイテムの機能にすぎません。

 では、これはどうでしょう。

(ケース4)

「コインを10個使うことで、聖なる剣を1個入手できて、聖なる剣と引き換えに、コイン10個で入手できるキャラクターが入手できる」

 この場合に聖なる剣は、先ほど例に挙げた聖なる石とほとんど変わりません。そうなると、前払式支払手段に該当しそうです(聖なる剣に他にどんな役割があるかによるでしょうが)。

 では、これはどうでしょう。

(ケース5)

「コインを10個使うことで、聖なる剣を1個入手できて、聖なる剣と関係するキャラクターにプレゼントすると、そのキャラクターが入手できる(仲間になる)。ちなみにその仲間は、コイン10個でも入手できる」

 この場合に聖なる剣は、3番目の要件を満たさないので、前払式支払手段に該当しなさそうですね。あくまでも、聖なる剣に関係するキャラクターが仲間になるというだけで、アイテムの機能にすぎない感じなので。

 では、これはどうでしょう。

(ケース6)

「コインを10個使うことで、聖なる剣を1個入手できて、色々なキャラクターにプレゼントすると、50%の確率でそのキャラクターが入手できる(仲間になる)。ちなみにその仲間は、コイン20個でも入手できる」

 ・・・。どうでしょう。前払式支払手段に該当するかどうか、実は意外とに分かりにくいのですね。

 LINEの件も、お金を払って入手する「ルビー」に関しては、前払式支払手段に該当することは間違いなかったのです。ですが、そのルビーと引き換えに入手できる「宝箱の鍵」(宝箱の鍵を使うと、宝箱を開けてアイテムを入手できる)が、前払式支払手段に該当するのか、はっきりしなかったのです。

 コンサバに解釈すれば、資金決済法違反のリスクを下げることができますが、ビジネスの自由度、スピードに影響を及ぼすことになります(資金決済法の規制を受けてしまうので)。かといってアグレッシブに解釈すれば、資金決済法違反のリスクを上げることになってしまいます。

 両者はトレード・オフの関係にある以上、最終的にはビジネス判断となります。ただ、少なくとも財務局から指摘を受けた際にきちんと反論できるだけの理論武装は、社内でしておく必要があります。

 さて、この資金決済法(前払式支払手段)の問題は、ゲームアプリを運営している会社だけに関係する話ではありません。意外と知られていませんが、実は多くのウェブサービスにも関係する(きちんと抑えておかないといけない)問題なのです。

ポイント制度のウェブサービスは資金決済法に注意

 さて、みなさんのウェブサービスは、料金支払いの仕組みはどうなっているのでしょうか?銀行振込なり、自動引き落としなり、カード支払なり、とにかくサービスの利用とお金の決済が直接結びついているなら、前払式支払手段の問題は関係ありません。

 ですが、事前に「ポイント」を購入してもらい、その「ポイント」を利用(消費)することでサービスが利用できる仕組みになっている場合、つまりサービスの利用とお金の決済が直接結びついていない場合は、前払式支払手段の問題が出てきます。

 もうお分かりですよね。上のケースで購入(利用)される「ポイント」は、前払式支払手段にドンピシャで該当するのです。そのため、このような料金支払いの仕組みを採用する場合は、資金決済法(前払式支払手段)の問題に対応しないといけないのです。

 わりと気軽に、このようなポイントを利用した料金支払いの仕組みを採用する企業が少なくないです。キャッシュインを前倒しできて、さらに一定数利用されずに終わることでコストを発生させずに済むメリットがあるからでしょう。ですが、みなさん資金決済法のことをあまり分かっていないようです(汗)

 もし、資金決済法が適用されるとなると、一定の事項の表示・情報提供義務と、LINEの件で問題となった供託義務が原則として生じます。リソースの足りない中小企業にとっては、かなりの負担となりますので、この問題には事前に対応しておく必要があります。

 ここまで聞いて、「我が社はそのような料金支払いの仕組みは採用していない。だけど、ユーザーが一定のアクションを起こすとポイントが付与されて、そのポイントはAmazonポイントなどで利用できる仕組みになっている。この場合も、資金決済法(前払式支払手段)が問題になるの?」と不安になった方もいるかもしれません。

 そこで、次にこういったおまけとしての「ポイント」の問題について解説をします。

おまけとしてのポイントは資金決済法で規制されない

 で、いきなり結論を言うと、「おまけとしてのポイント」は、基本的には、前払式支払手段には該当しません。つまり、資金決済法の問題は生じないのです。

 上で何度か解説している、前払式支払手段に該当するための要件を思い出してください。

  1. 金額・数量に応じた対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること
  2. 金額等の財産的価値が記載・記録されること
  3. 代価の弁済等に使用されること

 この①の要件、「金額・数量に応じた対価を得て発行される」がキーになります。

 上で解説したとおり、ここでいう「対価」は、金銭に限らず、金銭的価値のあるものも含みます。LINEの「宝箱の鍵」は、金銭と引き換えに提供される「オーブ」と引き換えに提供されるものでしたが(直接金銭と引き換えに提供されるものではありませんでしたが)、前払式支払手段に該当すると判断されたようです。

 ですが、ユーザーが一定のアクションを起こすと(商品を購入したり、サービスを利用したり、ページを閲覧したり、投稿をしたりすると)付与されるポイントは、基本的には、おまけとして無償で提供されるものであり、「対価を得て発行される」とは言えないのです。

 例えば、一般社団法人日本資金決済業協会のウェブサイトの「事業者のみなさまからよくあるご質問」のページには、まさにこの点について解説があります。

Q8.

ポイントは前払式支払手段に該当しないのですか?

A8.

ポイントについては、商品やサービスの利用に充てられるという点では前払式支払手段と同様の機能を有しますが、前払式支払手段とは異なり、消費者から対価を得ずに、基本的には景品・おまけとして無償で発行されているものと考えられます。

したがって、このように景品・おまけとして発行されるポイントは、利用者から「対価」を得ているとはいえず、前払式支払手段には該当しません。

 というわけで、おまけとしてポイントを付与するサービスを提供している企業さんは、「資金決済法の問題」は、ひとまず安心してもらって大丈夫です。

 ただ、話はここで終わりではありません。おまけとして発行するポイントの金銭的価値の程度によっては、景品表示法の不当景品類規制や、独占禁止法の不当廉売規制に引っかかる可能性があるのですね…。

(ここもまたややこしい話なので、今回の記事では解説はしませんが)

 いやはや、ポイントの付与というサービスは、本当にいろいろな法律の規制が問題になる仕組みですね。他の会社がやっているからといって、気軽に手を出したら、やけどする(違法になる)可能性があります。

 というわけで、この手のポイントサービスに手を出す際は、必ず事前に弁護士に相談をするようにしましょう!