フリーランスは急増している

ここ数年、会社に雇用された従業員としてではなく、あるいは、従業員をしながら副業・兼業で、業務委託で仕事をする人、いわゆる「フリーランス」として働く人が急増しています。

大手クラウドソーシング事業者のランサーズ株式会社が発表した「フリーランス実態調査2018年版」によれば、フリーランスの推計経済規模が、2018年の調査では初の20兆円を超え、日本の総給与支払額の10%を占めることになり、また、フリーランス個人の平均報酬は186万円となり、昨年比12%増加傾向となっているそうです。

(フリーランス実態調査2018年版)

また、フリーランス人口は1119万人となり、日本の労働力人口に対して17%を占めるという割合になっているそうです。

この記事をご覧になっている人の中にも、フリーランスとして働かれている人や、これからフリーランスとして働きたいと思っている人も多いのではないでしょうか。

ただ、フリーランスは個人として業務委託で仕事をするので(会社に雇用されるわけではないので)、労働基準法などの労働者を保護する法律によっては原則として保護されません。

労働基準法などが適用されれば(労働者であれば)、残業をすれば残業代が出ますし、有給休暇が付与されますし、産休・育休が取得できますし、労災が補償されますし、解雇は厳格に制限されます。

ですが、フリーランスには原則これらが一切ありません。

とはいえ、悲観する必要はありません。フリーランスを保護してくれる法律は、ちゃんとあるのです。

そして、皆さんがフリーランスをやるなら、それらの法律を知らないと大きく損をしてしまいます。

逆に、皆さんがフリーランスに業務を委託する側になるときは、それらの法律を知らないと、手痛い反撃を受けることになってしまいます。

というわけで、今回の記事ではフリーランスをやるなら知らないといけない法律について解説していきます。

 

フリーランスは労働者ではない

フリーランスは個人として業務委託で仕事をするので、労働者を保護する法律によっては「原則として」保護されません。

そうなると、最低賃金法や労働基準法が適用されないので、発注側はいくらでも低い報酬を提示できてしまいますし(もちろんフリーランス側が請けるかどうかは別ですが)、成果ベースの報酬なら、稼働時間がどんなに伸びても残業代は支払われません。

ただ、「原則として」という前置きをいれたのは、名目上はフリーランス(業務委託契約)ではあるものの、実質的には労働者(雇用契約)であるといえる場合には、最低賃金法や労働基準法などが適用されることがあるからなのです。

では、どういう場合に、実質的には労働者であるといえるのでしょうか。

 

これは、概ね以下の事実があれば、実質的には労働者だと認められやすくなります。

  • 発注者から仕事の遂行に当たって指揮監督を受ける(仕事の依頼や指示に対する拒否権がない)
  • 発注者の仕事に専属している
  • 発注者の社員と共同で、発注者の社員と同じ内容の仕事をしている
  • 始業・終業の時刻や休憩・休日、作業場所が拘束されている
  • 成果や作業内容単位ではなく、時間給、日給、月給等、時間単位で報酬が計算されている
  • 業務に必要なツールを発注者が用意している
  • 発注者の就業規則が適用される
  • 発注者の福利厚生制度を利用できる

 

確かにこれだと、発注者の社員と何が違うんだという感じですよね。

よく聞く「偽装請負」「偽装準委任」という言葉は、まさにこういった契約を指します。

逆に言うと、こういった事実が認められない(労働者を保護する法律が適用されない)「真っ当な」フリーランスの場合、高度な専門性を持った人でないと、ダンピングに陥りやすいという問題があります。

一時期、キュレーションメディアが流行っていたとき、「1円ライター」と呼ばれる、1文字1円の報酬で記事を量産するライターがクラウドソーシングサービス上に溢れかえりました。

とはいえ、フリーランスが報酬に関して、一切法律で保護されないわけではありません。

実は今、フリーランスに最低報酬額の基準を導入するという議論が起きているのです。

 

フリーランスを最低報酬額で保護?

2018年2月20日の日経新聞の報道によれば、政府はフリーランスに支払われる報酬に関して(業務ごとに)最低額を設ける検討に入ったとのことです。

「フリーランスに最低報酬 政府検討、多様な働き方促す」

(以下引用)

政府は企業に属さない技術者やデザイナーなどいわゆる「フリーランス」を労働法の対象として保護する検討に入った。仕事を発注する企業側との契約内容を明確にし、報酬に関しては業務ごとに最低額を設ける方向だ。不安定な収入を政策で下支えする。公正取引委員会も人材の過剰な囲い込みを防ぐ対応に乗り出しており、多様な働き方を後押しする。

(引用終了)

その後、本日(2019年1月15日)現在続報は見当たりませんが、政府が提唱する働き方改革の一環として、フリーランスとして働く人を後押しするのが、今後の日本社会の流れなのでしょう。

では、この最低報酬額の基準の導入は、フリーランスの業界にいったいどんな影響を及ぼすのでしょうか。

ピュアに考えれば、フリーランスの報酬相場が(最低報酬額まで)底上げされて、フリーランスの人たちの生活が安定することになりそうです。

ですが、果たしてそうでしょうか。ちょっと考えるだけで、色々なデメリットが生じそうです。

まず、相場より安い報酬で(お値段勝負で)受注していたフリーランスは、価格優位性という強みがなくなってしまいます。

フリーランスの中には、それ一本で食べているのではなく、本業(会社勤務)がある中で副業としてフリーランスをしていたり、パートナーが安定した仕事に就いている中でお小遣い稼ぎでフリーランスをしている人もいます。

また、フリーランスとして働き出したばかりで、スキルや経験が不十分なので、まずは案件の数をこなしてそれらを積み上げたい人もいます。

そうした人たちは、別に相場よりも安い報酬で構わないのに、それが制限されてしまう(結果、業務を受注できなくなる)おそれがあります。

また、仕事を発注する側に対して「最低報酬額さえ支払えばいいだろう」という免罪符を与えてしまい、現在高い水準で報酬を得ているフリーランスの人たちの報酬が引き下がってしまうおそれがあります。

政府が良かれと思って実施した施策が逆の効果を招いてしまうことは、有期雇用で5年を超えて契約更新する人たちが希望すれば無期雇用に転換できる「無期転換申込」の制度が2018年4月からスタートしたところ、むしろ雇い止めが増えてしまった問題など、挙げたらきりがありません。

それに、フリーランスの業務は色々あります。

例えばライター業務でも、ライティングだけでなく写真撮影やイラスト制作、取材先との交渉までライターが行う場合もありますし、カメラマンなどの他のスタッフのディレクションも行う場合もあるでしょう。Wordファイルの納品ではなく、CMS入稿まですることもあります。

そういった複数の業務が横断する場合に、「業務ごとの最低額」を定めることが果たしてできるのか、という問題もあります。

そうなると、最低報酬額の基準の導入は、必ずしもフリーランス業界にとって歓迎できる話ではないかもしれません。

そこで、今ある法律を使って、フリーランスをどう保護することができるかについて解説をします。

 

下請法と独占禁止法

フリーランスに役立つ法としてまず挙げられるのは、下請法です。

下請法は、ちょっとややこしい法律なのですが、フリーランスの方にとっては、「資本金が1000万円を超える法人が、プログラム、映像・音響作品、デザインの制作などの業務をフリーランスに委託する場合に、フリーランスを保護してくれる法律」とざっくり覚えておけばいいでしょう。

この下請法が適用されれば、発注者に対して、発注時に発注業務の内容、代金額、支払期限などを明確に記載した書面を交付する義務や、成果物の受領後60日以内に代金を支払う義務(60日以内に支払わないと14.6%の遅延損害金が発生)など、フリーランスを保護するための各種義務が課せられます。

とはいえ、下請法が適用されるためには、発注者の資本金が1000万円を超えていないといけませんし、発注内容も一定のものに限られるなど、いくつかクリアしないといけない要件があって、すんなり使えるわけではありません。

 

そこで、次に役立つのが独占禁止法です。

独占禁止法というと、大企業が市場を独占する行為などを禁止する法律であって、フリーランスには縁のない法律みたいなイメージがあるかもしれません。

確かに、1947年に独占禁止法が制定された当時は、フリーランスを保護の対象とする考えは取られていませんでした。

ですが、公正取引委員会が2018年2月15日に公表した「人材と競争政策に関する検討会」報告書(https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf )の中で、フリーランスについても独占禁止法が適用される方向性が明確に示されました。

独占禁止法の中で、特にフリーランスに関係する(フリーランスを保護する)のが、「優越的地位の濫用」です。

発注者が、自身の優越的な地位(フリーランスのビジネスがその発注者に依存していて、取引を打ち切られた場合に大きなダメージになるため、発注者の要請がフリーランスにとって著しく不利益であっても、それを受け入れざるを得ないような関係性)を盾に、フリーランスに不利益な要請をする行為は、「優越的地位の濫用」であり、独占禁止法に違反する可能性があるのです。

では、具体的にどういった行為が「優越的地位の濫用」としてで問題になるのでしょうか。

 

優越的地位の濫用とは

発注者が、自身の「優越的な地位」を盾に、フリーランスに不利益な要請をする行為は、「優越的地位の濫用」であり、独占禁止法に違反する可能性があります。

「優越的な地位」とは、具体的には、フリーランスのビジネスがその発注者に依存していて、取引を打ち切られた場合に大きなダメージになるため、発注者の要請がフリーランスにとって著しく不利益であっても、それを受け入れざるを得ないような関係性をいいます。

このような関係性を盾にすることが、「優越的地位の濫用」になるわけですね。

 

優越的地位の濫用で問題になりやすい行為としては、以下のような行為があります。

  • 支払遅延:既に成果物を納品しているのに、支払いがなされない
  • 代金の減額:正当な理由なく、一方的に代金が減額される
  • 成果物の受領拒否:成果物を納品しようとしても、受け取ってもらえない
  • 著しく低い対価:相場に比べて明らかに安い代金で発注する
  • 成果物に係る権利の一方的取扱い:タダ同然の代金で発注者が著作権を取得する

 

こういった行為が、優越的地位の濫用にあたるとして独占禁止法違反になる場合、法的に無効となります。

たとえ、フリーランスがこのような内容で契約を結んでしまっていとしても、従う義務はありません。

また、こういった行為でフリーランスが損害を受ければ、発注者に対して損害賠償を請求することができます。

さらに、独占禁止法違反の可能性のある行為について、公正取引委員会に報告すれば、公正取引委員会において審査の上、違反が認められた場合には違反行為を止めさせる「排除措置命令」が下されることもあります。

もっとも、公正取引委員会も業務多忙で、全ての報告に対応できるわけではありませんし、解決まで時間がかかるので、公正取引委員会への報告を行うこと盾に、発注者と交渉するのが現実的でしょう。

というわけで、これまでの記事で解説してきたとおり、政府はフリーランスという働き方の促進のために、現在様々な取り組みを行っています。

これからますますフリーランスとして働くひとが増えていく中で、フリーランスの皆さんはこういった情報をしっかりとキャッチアップして、発注者と対等なビジネスを実現していただければと思います。

それから、発注者の皆さんも、フリーランスの足元を見るようなことはせず、誠実に取引するようにしてくださいね。