「モンスター社員」という言葉が一般的になって久しいです。社会人としてありえないような、常識外れの行動で周囲を振り回し、会社や上司、同僚などを酷い目に遭わせる社員のことを、そのように呼ぶようです。
私も、まさにモンスター社員と呼ぶしかないような、とんでもないことをしでかす社員について、困り果てた顧問先から相談を受けたこともあります。
人数の少ない中小企業であれば、たった一人のモンスター社員のせいで、会社が回らなくなることもあります。この恐るべきモンスター社員に対して、会社はどう立ち向かえばいいのでしょうか。
私は顧問先に対して、モンスター社員対策として、「3ない」をアドバイスしています。
採用しない
そもそも、モンスター社員を採用しなければいいのです。
私は、これまで相談を受けてきたトラブル事例から、面接の際に、モンスター社員かどうか見極めるポイントが分かりました。モンスター社員の特徴は、何かしらの強いこだわりがあり、自分の主張を通そうとしてきます。
例えば、仕事のやり方なり、勤務スタイルなりで、自分の希望に拘ったり、給料で、常識外れな金額を主張するなど。面接という、自分(という商品)を売り込む場で、(お客様である)会社の都合に関係なく、自分の主張を通そうとしたら、モンスター社員の素質大です。
また、面接以外で、モンスター社員かどうか見極める確実な方法があります。
新卒者ではなく、転職者(それも既に退職している場合)限定の方法ですが、本人の事前の同意を得た上で、前の職場にインタビューすればいいのです。
もし、前の職場へのインタビューを本人が同意してくれなかった場合、前の職場で何らかの問題があったことが推測されます。
また、インタビューしたところ、前の職場の社長なり、担当者なりから、「あの人を採用するんですか…」とか、「コメントはできません」といった回答であれば、その社員に問題があることは、何となくわかるでしょう。
いきなり正社員にしない
正社員とは、期間の定めのない雇用契約で採用された社員ですが、社員を使用する際に、いきなりこの正社員にするのではなく、試用期間を設けるのです。そして、試用期間中に、モンスター社員かもと思ったなら、本採用を拒否(試用期間満了時に解雇)するわけです。
試用期間の長さに法律上の決まりはありませんが、試用期間が1ヶ月だと、本採用を決めるにあたって、モンスター社員かどうか見極める時間がありません。
というのは、試用期間が15日以上になる場合は、本採用拒否=試用期間満了時の解雇にあたって、30日以上前までに解雇予告をするか、あるいは、解雇予告手当(解雇予告日から解雇日までの日数が30日未満の場合の、下回った日数分の賃金相当額)の支払いが必要になります。
そのため、モンスター社員かどうかを見極めて、かつ、解雇予告手当は支払わずに済ませたい(30日以上前に解雇予告をする)となると、試用期間を2か月として、最初の1ヶ月で働きぶりを見て、1ヶ月経つまでに見極める必要があります。
そして、モンスター社員だと判断したら、その(試用期間満了まで30日以上ある)時点で、本採用拒否=試用期間満了時の解雇の予告をするのです。
注意しなければいけないのは、本採用を拒否するためには、合理的な理由ば必要ということです。なんとなく気にくわないから、といった感覚的な理由ではダメです。
そこで、本採用時の達成目標を明確に設定して、この目標が達成できれば本採用するが、達成できなければ本採用は拒否する、ときちんと伝えて、書面に残しましょう。
そして、本採用を拒否する時は、どの目標を達成できなかったのか、きちんと特定して、これも書面に残すようにしましょう。
いきなり解雇しない
これだけ注意しても、モンスター社員を採用してしまった場合、いったいどうすればいいでしょうか。
その場合は、とにかく、いきなり解雇してはいけません。いきなり解雇しても、裁判ではまず間違いなく無効になります。裁判で解雇の有効性を認めてもらうのは、とにかく大変です。
そこで、まず最初に目指すのは、自主的に退職してもらうことです。
退職届を自分から提出させれば、後から不当解雇だと主張しにくくなります。そのためには、あなたにどういう問題があるのか、そのせいで会社がどういう迷惑を被っているのか、繰り返し指導し、自分が会社にいるべきでないことを理解させる必要があります。
中小企業の場合は、この指導に際して、本人の上司に任せるのではなく、社長が前面に立つ必要があります。というのは、上司一人にモンスター社員の対応を任せるのは、荷が重すぎるからです。
これだけやっても、自主的に退職しない場合は、懲戒処分を積み重ねることが必要です。
法律上、解雇は、問題ある従業員に対する、最終手段とされています。手を尽くしたが、それでもダメだという場合に、初めて有効になります。
モンスター社員の問題行動には、軽い懲戒処分(戒告など)からスタートして、段階的に重くしていきます。面倒でも、毎回きちんと、問題行動と処分内容を書面に残す必要があります。
これをやっておけば、最終的に解雇して、その後、解雇無効の裁判を起こされても、解雇に向けてきちんとプロセスを踏んでいる、と主張できます。いきなり解雇した場合よりも、解雇が認められやすくなりますし、最終的に解雇が認められないとしても、比較的有利な条件で、和解で終わらせることができます。
以上の「3ない」の内、一番重要なのは、1番目の「採用しない」です。
中小企業には、なかなか良い人材が集まりません。ですが、少ない人数で業務をこなさないといけない中小企業で、モンスター社員を一人でも採用すれば、会社はガタガタになってしまいます。危ないと思ったら採用しない、これは鉄則です。
これまで私が相談を受けてきた、モンスター社員のトラブルは、人手不足な中で、ちょっと危ないかなと思っても、その社員を採用してしまった場合が、ほとんどなのです。