みなさん、反社会的勢力を排除してますか? 何をいきなり物騒な、と思うかもしれませんが、私のように契約書のチェックを日常的に対応していると、大企業のみならず、中小企業であってもちゃんとした企業であれば、契約書の中に反社会的勢力排除条項を設けているのが一般的になっていることが分かります。皆さんの会社の契約書の雛形にも、あるいは、取引先から示された契約書にも、反社会的勢力排除条項が設けられているのではないでしょうか?

 この反社会的勢力排除条項、「当社は暴力団と付き合いなんてないから関係ないな」と考えて、そんなに気にしたことがない人が圧倒的多数かと思います。ですが、「反社会的勢力」といっても、何も暴力団だけを指すものではなく、その範囲は思いの外広いため、決して軽視することはできず、内容をきちんと理解しておかないといけません。

 というわけで今回の記事では、見慣れているけど内容をきちんと理解できていない反社会的勢力排除条項について、深掘りしていきたいと思います。

反社会的勢力って何?

 とはいえ、そもそも反社会的勢力排除条項のことを知らない人がいるかもしれないので、まず初めに、ここから説明していきましょう。

 反社会的勢力排除条項とは、

  1. 反社会的勢力とは契約をしません
  2. 契約後に反社会的勢力と判明した場合は契約を解消します

この二点を謳った条項です。

 「そんなの常識だ」と思ったあなた、ではそもそも、「反社会的勢力」って何でしょうか?典型的なものとして「暴力団」が挙げられますが、果たしてそれだけなのでしょうか。

 実は「反社会的勢力」と一口に言っても、法律などで明確な定義があるわけではありません。ただ、参考になるのが、政府の犯罪対策閣僚会議内に組織された「暴力団資金源等総合対策ワーキングチーム」が2007年6月19日に発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」です。

 この中で、反社会的勢力に関して以下のような記載があります。

「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。」

 ちょっと分かりにくい表現ではありますが、別に「暴力団」だけを指しているわけではないのですね。もともと、暴力団は昔から社会的な問題でしたが、2000年台から各地方自治体で暴力団排除条例が制定されるようになり、その影響で社会的な包囲網が拡大して、暴力団は活動領域を大きく制限され、地下に潜るようになりました。

 ですが、暴力団排除条例は、あくまでも暴力団の構成員を対象としています。暴力団が地下に潜ることにより、暴力団の周辺者、共生者、ネットワークが不透明化している現在、暴力団排除条例だけでは、社会に仇をなす存在に十分対応しきれなくなっています。

 そこで、暴力団に限定せず「反社会的勢力」と広く捉えて、彼らに規制を及ぼすのが昨今のトレンドなのです。具体的には、暴力団、暴力団関連企業(=フロント企業)、総会屋、社会運動標榜ゴロ(いわゆるエセ同和。正当な同和、反部落活動をせずに不当な利益を上げる存在)、政治活動標ぼうゴロ(いわゆるエセ右翼)、特殊知能暴力集団(オレオレ詐欺など)といった属性の輩や、暴力的な要求、法的な責任を超えた不当な要求といった行為をしてくる輩を、「反社会的勢力」と捉えるのです。

 というわけで、何となくわかっているようで、実はよくわからない反社会的勢力が、どういう存在を指すのか、分かりましたでしょうか。

なぜ反社会的勢力を排除するの?

 では、そもそもなぜ反社会的勢力を排除しないといけないのでしょうか。反社会的勢力排除条項が何のためにあるのか、その目的を解説しましょう。

 目的は2つあります。

  1. 反社会的勢力の資金源を断つため
  2. 反社会的勢力の活動領域を狭めるため

 暴力団というのは、下位の団体が違法・不当な行為で金を荒稼ぎし、それを上位の団体に上納し、上の人間が不当にいい思いをするための組織、ビジネスモデルです。彼らは、かつては利益率の極めて高い覚せい剤の密売などがメインでしたが、世界的に薬物に対する包囲網が広がる中で、今はビジネスの世界に入り込んで違法、不当な行為で金を荒稼ぎしています。例えば、不動産の立ち退き交渉代行とか、節税のコンサルテーションとか、情報誌、図書等の購読要求とか、一見すると違法ではないものの、限りなく黒に近いグレーな活動です。

 しかし、いくら直接的に違法でなくても、そこで生じた利益が暴力団の資金源になり、犯罪行為に使われる可能性があります。また、多くの企業、人々が真面目に誠実にビジネスに取り組んでいる中で、限りなく黒に近いグレーな活動で不当に利益を上げている存在を許せば、不公平なことになります。

 そこで、暴力団の資金源を絶ち、活動領域を狭めるために、暴力団排除条例が生まれたわけですが、前回のメルマガでも解説したとおり、暴力団の活動が地下に潜る中で、その周辺者・共生者に対しても、規制をかける必要があります。そのため、反社排除条項が必要になったのですね。

 とはいえ、反社会的勢力だからといって契約から排除してしまっていいのでしょうか。差別にはならないのでしょうか。

反社会的勢力の排除は差別にならないの?

 そもそも、契約というものは「契約自由の原則」によって、誰と契約するかは当事者の自由なのが原則です。さすがに公共性の高い取引(電気・ガス・水道などのライフラインや、医療行為など)は、反社会的勢力だからといって拒否する訳にはいきませんが、それ以外に関しては、契約自由の原則によって拒否できるというのが一般的です。

 とはいえ、差別的な契約の拒否は、憲法14条1項(法の下の平等)から問題になることがありまして、反社会的勢力に関してこの点が真正面から争われた裁判がありました。市営住宅の入居者が暴力団員とわかった時点で明け渡しを請求できる市営住宅条例に基づいて、暴力団員であることが判明した入居者に対して広島市が明渡しを請求したのに対して、入居者(暴力団員)が憲法14条1項(法の下の平等)及び22条1項(居住の自由)違反を主張して争った裁判です。

 この裁判は最高裁まで争われましたが、平成27年3月27日判決で最高裁は、「暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない。」、「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能である」(=暴力団員であることは社会的身分ではない)といった理由から、市営住宅の明渡請求は憲法に違反しない、と判断しました。

 というわけで、みなさんが提供、販売するサービス、商品が公共性の高いものでないのであれば、基本的には、反社会的勢力を理由とした契約の拒否は許されることになります。とはいえ、せっかく申し込みがあったのだから、お金をきちんと払ってくれるなら、誰であれ契約するよ、という考えの方もいるかもしれません。

 それでは、反社会的勢力と契約すること自体は、許されるのでしょうか?

反社会的勢力とは契約してはダメ

 結論からいうと、ダメです。別に不当な要求があった際に断ればいい(契約を解除すればいい)、という話ではありません。反社会的勢力とは、契約を含めた一切の関係遮断が、社会的な要請です。

 反社会的勢力を甘く見てはいけません。彼らは言葉巧みに企業に取り込み、気がつけば弱みを握られ、金銭を脅し取られたり、いいように利用されてしまいます。

 そうなったら、役員は善管注意義務違反で損害賠償責任を負う可能性がありますし、暴力団排除条例の「利益供与の禁止」に違反したとして企業名の公表や刑事罰といったペナルティを受ける可能性があります。それどころか、反社会的勢力と契約していることが公になれば、ネットで噂が広がって新規取引先の開拓やリクルーティングにも大打撃が生じたり、既存取引先から契約を打ち切られたり、金融機関からの融資もストップする可能性があります。

 普通にビジネスをされている皆さんからすれば、「反社会的勢力」といっても、遠い国のテロリストのような感じで、いまいち現実感のない存在かもしれません。ですが、反社会的勢力は何気ないところに存在します。私自身、社会経験の乏しいベンチャー企業の経営陣が反社会的勢力に取り込まれた話は、時たま聞くことがあります。

 というわけで、反社会的勢力とは契約をしない、もし契約した後に発覚したら契約を解除する、という運用は徹底してください。

反社会的勢力排除条項をどう活用するのか

 それでは、反社会的勢力排除条項には具体的にどんな効果があり、どう活用することができるのでしょうか。

コンプライアンスを宣言できる

 自社の契約書雛形に反社排除条項があれば、取引先に対して、自社が反社排除に取り組んでいる、コンプライアンスを重視している、ということをアピールできます。それに、もし自社が反社と関わり合いがあれば、あえてそんな規定を入れるわけないので、自社が反社と関わり合いがないことのアピールにもなります。

反社に対して予防、牽制できる

 もし取引先が反社と関わり合いがある場合、それが発覚した場合に即契約を解除される可能性があるとなると、こちらとの取引を躊躇するでしょう。そして、同じような契約内容なら、反社排除条項が入っていない契約書を結べる他社に行くでしょう。

交渉時の大義名分になる

 もし契約書に反社排除条項がない場合、取引先が関わっているのがダイレクトに暴力団等であれば、暴力団排除条例に基いて対処できますが、その共生者等の場合は、暴力団排除条例が適用されず、対処できません。そうなれば、「なぜうちと取引しないのだ?」「なぜ一方的に契約を解除するのだ?」と凄まれた場合に、自社の担当者が苦慮することになってしまいます。

 ですが、契約書に反社排除条項があれば、それを大義名分に、取引拒否、契約解除ができます。

責任を回避できる

 不動産賃貸借契約など、継続的取引では、たとえ取引先が契約条項の一つに違反したからといって、即時に解除できるわけではありません。継続的取引では、取引の継続に対する期待の保護のため、単発的取引と比べて、解除できる場面が限定される(無理に解除すれば、法的責任を負う可能性がある)のです。

 ですが、契約書に反社排除条項があれば、継続的取引であっても、即時の解除が可能で、法的責任を回避できるのです。

 どうでしょう。反社排除条項って、こんなにもいろいろな効果があるのですね。自社の契約書雛形にまだ反社排除条項がない会社さんは、入れたくなったのではないでしょうか。

 では、具体的にどのように自社の取引に反社排除条項を導入していけばいいのでしょうか。

反社排除条項の実践的な導入方法

 まず、これから作成する新規の契約書、利用規約などには、反社排除条項を入れましょう。今や、きちんとした企業と取引をする際には、反社排除条項が入っているかきっちりチェックされる時代です。逆に、反社排除条項が入っていないと、「いつまでも古いフォーマットを使っている企業なのか」と心配されてしまいますよ。

 では、すでに契約書を締結済みの場合はどうすればいいか。この場合は、反社排除条項を契約書に追加する旨の覚書を取り交わしましょう。「覚書だなんて大げさな」と思うかもしれませんが、別に珍しい話ではないですよ。ここ数年は、当事務所の顧問先からも、「取引先から反社排除の覚書を差し入れられたからチェックして欲しい」という依頼がよく来ています。

 では、取引先と契約書を締結するのではなく、自社所定の利用規約に同意の上で申込書を提出してもらう方式で、契約を締結している場合はどうすればいいか。この場合は、利用規約の変更の手続きを利用して、反社排除条項を追加すればいいでしょう。

 というわけで、今一度自社の契約書雛形、利用規約を見直すとともに、これから作成する場合は必ず忘れずに反社排除条項を入れましょう。

 では、いよいよこの反社排除条項を使って、実際にどう反社に立ち向かっていけばいいのか、その実践的な対応方法を解説します。

反社への実践的な対応方法

 まず第一に、反社会的勢力は、強いものには弱く、弱いものには強く、の傾向にあります。企業の担当者の中で弱気な人間がいれば、そこを攻めて強く当たってきたりしますし、弁護士を立てて代理交渉をしていても、弁護士を迂回して担当者に直接連絡をしてきたりします。必ず弁護士を窓口に立てて、「窓口はあくまでも弁護士です」、という毅然とした対応が必要です。

 第二に、暴行、脅迫、名誉毀損、信用毀損、業務妨害などの違法行為に対しては、警察と連携して、告訴、告発、被害届の提出で刑事的な対応をしたり、民事で損害賠償を請求したり、仮処分で差し止めをしたりするなど、厳格な法的措置を講じましょう。こちらの対応が緩いと思われると、どんどん攻め込まれてしまうので、躊躇してはいけません。

 第三に、反社会的勢力対応を相談できる外部の専門機関は色々あります。例えば、公安委員会が指定する暴力追放運動推進センターは各都道府県にあり、暴力団対応の駆け込み寺として、各種サポートをしてくれます。サポート内容は、トラブル発生後の対応だけでなく、相手方がそもそも暴力団なのか確認することもできたりします。弁護士だけでなく企業の担当者からの相談にも対応していて、「今度この会社と取引するのだけれども、暴排条項の対象となる企業かどうか確認したい」と照会をすることもできます。自社の内部で抱え込んだり、狭い範囲の知人に相談するのではなく、こういった外部の専門機関を積極的に活用しましょう。

 というわけで実践的な対応方法を解説しましたが、実はこれだけで全ての問題を解決できるわけではありません。残念なことに最近の反社会的勢力対応は複雑化して、一筋縄では行かなくなっているのです。

最先端の反社排除条項

 まず、皆さんは「半グレ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。半グレとは、暴力団ではないものの、反社会的活動や犯罪行為を繰り返す集団でして、最近その存在が非常に問題になっています。

 彼らは暴力団ではないため(暴力団とも付かず離れずの関係であったりするため)、警察や暴力追放運動推進センターがその存在を十分に把握できておらず、照会をかけても該当性の有無が不明だったりします。また、暴力団ではない以上、反社排除条項で「暴力団」だけを挙げていると、条項が使えないことになってしまいます。

 次に、たとえ相手が暴力団(のよう)だとして、警察へ照会をかけても、何でもかんでも情報を出してくれるわけではないという、という実際上の問題があります。「反社排除条項を使わないと契約を解除できないのですか?普通に契約違反を理由に解除できませんか?」と言われることもあります。反社排除条項がある+暴力団かどうかわからないと解除できない事情があるという要件が、実際には必要になる場面もあるのです。

 そして、最近の暴力団は暴力団であることを極力隠そうとします。今日び、「俺は暴力団だぞ!」と示してくる暴力団はいないのです。そのため、「属性要件」(暴力団その他反社会的勢力か)だけでは、反社排除条項は十分に機能しません。

 そこで重要になるのが、「行為要件」なのですね。

  1. 暴力的な要求行為
  2. 法的な責任を超えた不当な要求行為
  3. 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
  4. 風説を流布し、偽計若しくは威力を用いて相手方の信用を棄損し、又は相手方の業務を妨害する行為

 反社排除条項の中で、こういった「行為」も規制対象にするわけです。こういった行為を相手が行ってきた場合は、即時に契約を解除できる、としておくのですね。

 というわけで、反社排除条項を詳しく解説でしたが、いかがでしたか?反社会的勢力は、決してドラマや漫画の世界の存在ではなく、身近なところに潜んでいます。特に最近は、若くてイケイケなベンチャー企業の経営陣が、反社会的勢力に取り込まれる(大抵の場合、女性をあてがわれて、美人局にあったり、薬物を勧められて、後から脅されたりと)ケースもあるようです。

 決して反社会的勢力と関わらないよう、専門家の力も借りて、毅然と対応してください。