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免責規定が無効になる!?
受託開発が先細る中で、自社のWEBサービスやアプリの販売を手がけるIT企業が増えていますが、皆さんどう利用規約を作ればいいか、悩んでいます。そこで、「WEBサービスの利用規約を作ろう!」と題して、この記事で利用規約の作り方を解説したいと思います。
多くの会社さんが、似たようなWEBサービスやアプリの利用規約を真似して、何となくで作っているかと思いますが、これは危険なことです。というのは、利用規約をきちんと作らないと、会社が倒産するようなリスクもあるのですね。
WEBサービスやアプリが、受託開発と大きく違うこと、それはユーザーの数が膨大になるということです。ということは、もしシステムに不具合などが起きて、ユーザーに損害が生じた場合、会社が負担する損害賠償額は、莫大になってしまいます。ユーザー1名あたりの損害額×ユーザー数=損害賠償額ですからね。
その対策として、利用規約には、「免責規定」や「損害賠償制限規定」が不可欠です。
IT企業の皆さんなら、2012年6月に発生したファーストサーバー事件(データ障害により5000以上のユーザーのデータが消失)はご存知ですよね。この事件で、ファーストサーバーは、莫大な損害賠償額を負った、、、と思いきや、1ユーザーあたり少額の賠償金しか負担しませんでした(私の顧問先企業も被害を受けましたが、提示された賠償金は数万円だったそうです)。というのは、ファーストサーバーは利用規約の中で、「免責規定」や「損害賠償制限規定」をしっかりと定めていたので、本来の損害賠償額を大幅に抑えられたわけです。
「それは知らなかった!」という会社は、今すぐ自社の利用規約を見直して下さい。その一方で、「うちの利用規約にはちゃんと規定があるから大丈夫」と思った会社さん、本当にその規定は正しい内容ですか?実はその規定、法的に無効かもしれませんよ。
そもそも利用規約は、好き勝手に作っていいわけではありません。法律に違反する規定は、無効になります。そして、ユーザーにあまりにも不利な規定は、「公序良俗」に違反して無効になる可能性が高いです(実際そういった裁判例もあります)。となると、「いかなる理由で生じた損害であっても当社は一切責任を負わない。」といった完全な免責規定は、無効になる可能性が高いわけです。
今のはあくまでも「可能性」の話ですが(公序良俗違反のラインは読み切れないので)、これがBtoCのサービス(アプリ)の場合、完全な免責規定は「確実」に無効です。なぜなら、消費者契約法に違反するからです。
消費者契約法は、消費者保護のための法律でして、消費者に不利な一定の契約を無効と定めています。その中で、法8条1項1号は、事業者側の完全免責規定は無効と定めているのです。
以上まとめると、BtoBの場合、完全免責規定は無効の可能性が高く、BtoCの場合だと、確実に無効なので、いずれにせよ、完全免責規定は入れない方がいいです。
こうアドバイスをすると、「それは分かった。でも、ユーザーだって法律に詳しくないから、とりあえず入れてみて、文句を言われたら賠償する。」という企業も中にはいます。ですが、企業倫理としてよろしくないので、法律に違反しない範囲で利用規約を作りましょう。
利用規約への同意の取得方法、間違ってませんか?
さて、自社に有利な利用規約をせっかく作っても、ユーザーから同意を取得しなければ、その利用規約はユーザーとの契約関係に適用されません。その一方、ユーザーから同意を取得する手続きを厳格にやり過ぎると(書面で申込書を送る必要があるなど)、ユーザーが面倒に感じて、サービスを利用してくれません。ユーザーからの同意の取得方法は、とても悩ましい問題です。
皆さんの中には、『うちは利用規約の中に、「ユーザーは、本サービスを利用することにより、本規約に同意したものをみなされます。」という規定を入れているから、ユーザーから同意は取れている!』と思っている方がいるかもしれません。ですが、これだけで同意が取得しているとは言えないので、注意してください。
では、どうすればユーザーから同意を取得したと言えるのでしょうか。困ったときは、お役所の見解を聞きましょう。
経済産業省は、WEBサービス等に関する様々な法律問題の解決基準を示すべく、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を、経済産業省のサイト上で公表しています。
(記事執筆時点での最新版は平成29年6月版です)
この準則の中では、利用規約の同意の取得方法について、以下のように書かれています。
取引の申込みにあたりサイト利用規約への同意クリックが要求されている場合は勿論、例えば取引の申込み画面(例えば、購入ボタンが表示される画面)にわかりやすくサイト利用規約へのリンクを設置するなど、当該取引がサイト利用規約に従い行われることを明示し且つサイト利用規約を容易にアクセスできるように開示している場合には、必ずしもサイト利用規約への同意クリックを要求する仕組みまでなくても、購入ボタンのクリック等により取引の申込みが行われることをもって、サイト利用規約の条件に従って取引を行う意思を認めることができる。
うーん、分かりにくい!
結局何をすればいいかというと、サービスの申込画面に、「利用規約はこちら」といった感じで、分かりやすくハイパーリンクを設置しておけば、申込ボタンを押してもらったことで、利用規約の同意を取得したといえますよ、(利用規約を全文表示するなどした上で)「利用規約に同意します」といったボタンを別途押してもらうようなことまでは、しなくても大丈夫ですよ、と言っているのです。皆さんが思っていたよりも、利用規約の同意は取得しやすいですよね。
といっても、実際に裁判になった場合、判断するのは裁判所なので、これで絶対大丈夫とはいえません。ですが、経済産業省が関係各所の協力を得て示した解釈なので、一つの指針となります。
ただ、このやり方で同意を取得したとしても、「そんな利用規約は知らない!」とクレームをいってくるユーザーも、中にはいるでしょう。そこで、ユーザーが申込ボタンを押した際のログデータは取っておき、ユーザーに送る申込確認メールの中で、利用規約を全文引用するなどしておくと、そういったクレームに対処できますよ。
利用規約は後から変更できるの?
サービスをリリースした後になって、利用規約を作った当初は想定していなかった事態が生じることは、よくあります。
例えば、一部のユーザーが望ましくない形でサービスを利用する問題が発生して、しかし「禁止行為」の規定の中で、その行為が禁止されていなかったので、追加する場合。あるいは、他社のものを流用して適当に作った利用規約に不備が見つかり、修正する場合…。
その一方、利用規約の変更は、一歩間違えると、ネット上で大炎上します。2008年にはmixiの利用規約変更をめぐって、大騒動になりました。
では、利用規約はどうやって変更すればよいのでしょうか。
そもそも、利用規約は、事業者とユーザーとのサービス利用契約の内容を合意した(電子的な)契約書です。そして、常識的に考えれば、契約書の内容を、一方当事者が自由に変更できるわけありません。法律の原則でも、契約内容の変更は両当事者が合意することが必要です。そのため、各ユーザーから個別に同意を取らないと、そのユーザーとの間で利用規約を変更することはできないはずです。
ですが、ユーザーが大勢いるWebサービスで、現実には無理な話です。そこで、利用規約の中に、利用規約の変更に関する規定を入れておくことが一般的です。
とはいえ、利用規約の変更に関する規定を入れてさえいればいいのか、利用者に不利な変更は制限すべきではないか、利用規約の変更をどのように利用者に告知すべきか、などの議論がありました。
そしてこの問題は、2020年4月1日施行予定の改正民法で対応されることになりました。
改正民法では、以下のいずれかに該当する場合には、個別に利用者から同意を得なくても、利用規約の変更ができるとされています(改正民法第548条の4第1項)。
- 利用規約の変更が、利用者の一般の利益に適合するとき
- 利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
①は、一部の利用者の問題行為を禁止するために、禁止行為の規定を追加する場合などです。
②は、①と違って利用者の一般の利益に適合しない(利用者に不利な変更になる)ものの、諸般の事情を総合考慮して、変更することが合理的なものである場合です。
とはいえ、上の①か②に該当すれば自由に変更できるわけではありません。
- 変更の効力発生時期を定めること
- 変更後の利用規約の内容と変更の効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知すること
この①と②、両方の手続きを取ることで、利用規約を変更することができるのです。
というわけで、これらの改正民法の規定に従った利用規約の変更に関する規定は、以下のようになります。参考にしてください。
第*条(利用規約の変更)
1 当社は、以下の場合に、本規約をいつでも任意に変更することができます。
(1)利用規約の変更が、利用者の一般の利益に適合するとき
(2)利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
2 当社は、前項による利用規約の変更にあたり、利用規約の変更の効力発生日の*ヶ月前までに、変更する利用規約の内容及び変更の効力発生日を、当社ウェブサイトに掲載し又は利用者に電子メールを送信する方法により、これを周知します。
なお、サイトの掲載に際しては、サイトの新着情報で取り上げたり、新旧条文対照表を掲示したりすることで、変更の事実を目立つように、そして変更内容を分かりやすく周知すべきです。
また、重要な変更を行う場合は、変更までの予告期間を十分に設けて、変更を受け入れられない利用者が、サービスの利用を中止したり、代替サービスを探すための時間的余裕を与えるべきです。
ユーザーの投稿は誰のもの? mixiの二の舞にならないために
2008年に起きたmixiの利用規約変更炎上事件を、皆さん覚えているでしょうか。当時の経緯を、簡単におさらいしましょう。
2008年3月3日、mixiは、4月1日から利用規約を変更することを発表し、(新)利用規約を公表しました。ところが、公表された(新)利用規約には、以下のような規定がありました。
- 本サービスを利用してユーザーが日記等の情報を投稿する場合には、ユーザーは弊社に対して、当該日記等の情報を日本の国内外において無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うこと)を許諾するものとします。
- ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします。
この規定をそのまま読むと、mixiは、ユーザーが投稿した日記を、自由に使うことができる(書籍化して販売するなど)ことになります。そのため、mixiのユーザー間で一気に反発が広がり、それが2ちゃんねるなどで「祭り」になり、ネットで大炎上したわけです。
翌3月4日、mixiは慌てて記者会見を開き、今回の利用規約変更の目的は、
- 投稿された日記等の情報が、mixiのサーバーに格納する際、データ形式や容量が改変されること
- アクセス数が多い日記等の情報については、データを複製して複数のサーバーに格納すること
- 日記等の情報が他のユーザーによって閲覧される場合、mixiのサーバーから国内外に存在するユーザー(閲覧者)に向けて送信されること
これらに対応するためのものであり、ユーザーの日記を書籍化するなど、マネタイズのためのものではない、と釈明しましたが、後の祭りでした。結局、mixiは、3月19日、(新)利用規約を、以下の規定に変更することを発表し、ようやく騒動は収まりました。
- 本サービスを利用して投稿された日記等の情報の権利(著作権および著作者人格権等の周辺権利)は、創作したユーザーに帰属します。
- 弊社は、ユーザーが投稿する日記等の情報を、本サービスの円滑な提供、弊社システムの構築、改良、メンテナンスに必要な範囲内で、使用することができるものとします。
- 弊社が前項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、情報の一部又は氏名表示を省略することができるものとします。
- 弊社が第2項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、ユーザーが設定している情報の公開の範囲を超える形ではこれを使用しません。
この事件は、ユーザーがWEBサービスに投稿(送信)したコンテンツ(テキスト・画像・動画など)の「著作権」が誰のものになるのかという、簡単なようで、実は皆さんあまり良く分かっていない問題について、浮き彫りにされました。
「ふーん。SNSって、大勢の一般人を相手にするから大変だな。まぁ、当社はSNSには手を出していないので、関係のない話だな。」と思ったあなた。本当に関係のない話なのですか。BtoBのWEBサービスであっても、グループウェアなど、ユーザーがコンテンツを投稿するサービスもあります。また、厳密な意味でのSNSに限らなくても、掲示板機能などがあれば、そこにユーザーはコンテンツを投稿することになるので、やはりその権利処理をどうするかが問題になります。
それでは、ユーザーが投稿したコンテンツの権利処理はどうすればいいのでしょうか?
この点、バックアップのためにコンテンツのデータをコピーしたり、あるいは、画面表示の仕様との関係から、投稿されたコンテンツを一部修正(色調を変えたり、文書の冒頭部分をサムネイル化等)する必要はあります。そして、これらの行為は、いずれも、コンテンツ(著作物)の利用行為なので、ユーザー(著作権者)から、権利許諾を得る必要があります。
しかし、それならば、あくまでも、サービスを運営するために必要な範囲で利用する権利を(ユーザーが会社に)与える、という内容にしておけばよかったのです。具体的には、以下のような規定です。
「本サービスを利用してユーザーがコンテンツを投稿する場合でも、ユーザーは、コンテンツに係る知的財産権等の権利を、投稿後も引き続き保有します。弊社は、本サービスの運営のために必要な範囲に限って、投稿したコンテンツを利用することができるものとします。」
これならば、ユーザーが懸念するような、コンテンツを勝手に利用してマネタイズされる、という事態は起きないので(本サービスの運営のために必要な範囲は超えるので)、ユーザーに対して、あらぬ誤解を与えずに済みますし、事業者側も、サービスの運営に支障はありません。
「大は小を兼ねる」という意識で、なるべく事業者側に広めの権利を確保しておきたい、という気持ちは分かります。しかし、最近は、ユーザー自身の権利意識も高まっていますし、特にBtoCのサービスの場合は、ユーザーの反感を買うような利用規約にすると、炎上する可能性があります。
利用規約は、「事業者側の権利を確保する」という観点だけでなく、「ユーザー側に誤解を与えない」という観点からも、規定の仕方を工夫した方がよいでしょう。
違法コンテンツが投稿されると、運営者も責任を負う
ユーザーがコンテンツを投稿できるウェブサービスは、とにかく沢山あります。大手だと、掲示板では2ちゃんねる、日記ではFacebook、動画ではyoutubeなどですね。
ユーザのほとんどは、自分で作った(自分に著作権のある)コンテンツを投稿するのですが、中には、他人が作った(自分に著作権のない)コンテンツを、許可なく投稿するケースがあります。
ウェブサービスにコンテンツを投稿する行為は、著作物の利用行為にあたり、著作権者の許可なしには、行うことはできません。そのため、許可なく投稿したユーザーは、著作者の著作権を侵害しているため、違法になります。具体的には、民事上の損害賠償責任を負うことになりますし、刑事罰として10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金(両方の場合もあり)を科せられることになります(ノーモア映画泥棒のCMでも、そんなことを言ってましたね)。
みなさんも、ユーザーがこのような責任を負うことは、当然だと思うでしょう。それでは、ウェブサービスの運営者も、(場合によっては)責任を負うということは、知っていましたか?
ウェブサービスの運営者の立場としては、「利用規約の中で、【権利侵害コンテンツの投稿は禁止する】と規定しており、サービス上では禁止している。それに違反したユーザーの行為について、なぜ運営者が責任を負わないといけないのか?」と思われるかもしれません。
しかし、運営者の責任が争われた裁判(東京高裁平成17年3月3日判決:2ちゃんねる小学館事件)で、裁判所は、ざっくりまとめると以下の様な判断を示しています。
- ウェブ上で誰でも匿名で投稿・閲覧ができる掲示板を運営している者は、著作権侵害の投稿が行われないよう、注意事項を案内するなど、事前の対策を講じることが必要である
- それだけでなく、著作権侵害の投稿があった場合は、速やかに是正すべき義務がある
- 少なくとも、著作権者から、著作権侵害の指摘を受けた場合、可能ならば、投稿者に照会をすべき
- さらに、著作権侵害が明白なときは、直ちに投稿を削除すべき
この裁判所の判断を前提とすると、単に利用規約上で権利侵害コンテンツの投稿を禁止しているだけで、実際には権利侵害の投稿を放置している場合、この場合は、上記の②~④に対応できていないことになり、運営者が責任を負うことになってしまいます。
最近は、(著作権などの)権利に対する権利者の意識が高まっているので、権利侵害コンテンツへの運営者の対応責任は、ますます重くなっています。ユーザーがコンテンツを投稿できるウェブサービスを運営している事業者の皆さんは、十分に注意してくださいね。
ユーザーの問題行動が野放しになる!?
上で解説したとおり、ユーザーの著作権侵害の行為に対して運営者が責任を負わないためには、権利侵害コンテンツに対して、厳しく対応する必要があります。そしてこれは、著作権侵害に限った問題ではなく、名誉権、プライバシー権侵害のコンテンツの投稿や、違法業者による宣伝の掲載など、ユーザーが何らかの投稿・掲載をするサービス全般で、問題になる話です。
「それは大変だ!今後は、権利侵害を疑われるコンテンツを発見したら、即座に削除して、投稿者のアカウントを失効させないと!」と思ったとすれば、ちょっと勇み足ですね。
そもそも、利用規約で、権利侵害コンテンツの投稿を、禁止していますか?
Webサービスの利用規約には、基本的に、ユーザーが行ってはいない行為(禁止行為)が規定されています。ところが、禁止行為が規定されていない利用規約も、中にはあります。
それに、Webサービスの内容によって、禁止すべき行為が変わってきます。例えば、オンラインゲームの場合、リアルマネートレード(RMT)を禁止しないと、ゲームバランスが崩れて、ユーザーが離れる可能性があります。また、マッチングサイトの場合、購入者と出店者との間で、直接やり取りして契約されてしまうと、運営者側に手数料が入ってこないことになります。
「禁止行為」をきちんと規定しておけば、ユーザーが問題行動を起こした際に、「その行為は利用規約の第*号で禁止されています」と、根拠を示して、具体的に指摘することができます。ほとんどのユーザーは、利用規約で禁止されていると言われれば、大人しく引き下がります。
ところが、他社の利用規約を流用していて、このような「禁止行為の漏れ」に気づいていないと、いざユーザーの問題行動に対処しようとしても、そもそも何も指摘できないことになるのです。
ユーザーの問題行動を野放しにしないために、「自社のサービスで禁止したいユーザーの行為はなにか?」という点を改めて考えて、利用規約できちんと禁止行為を規定するようにしましょう。
その利用規約、世界を相手に戦えますか?
みなさんのWEBサービスは、日本国内だけでクローズしていますか。それとも、世界中のユーザーに、サービスを提供していますか。
海外展開に力を入れて、現地法人まで設立している会社もあれば、今はまだ、日本国内のユーザー数を増やすことに力を入れている会社もあるともいます。ですが、外国語対応していないWEBサービスであっても、海外所在の日本人ユーザーが利用していることは、珍しいことではありません。WEBサービスを手がけるということは、世界中の人がユーザーになる可能性があるということです。
では、みなさんの利用規約は、ユーザーが海外にいる場合を考慮した内容になっていますか?「いきなりそんなこと言われても、何がポイントになるのか分からないし…。そもそも、どの国にユーザーがいても、利用規約をきちんと作っておけば、利用規約のとおりに解決されるから、問題ないのでは?」と思うかもしれませんが、そういうわけではありません。
日本で作る利用規約は、当然のことながら、日本法を前提とした内容になっています。ところが、日本の法律が、世界のどこでも適用されるわけではありません。場合によっては、ユーザー所在国の法律が適用される可能性があります。その場合に、その国の法律を前提とすると、利用規約の内容が、無効になってしまう可能性があります。
それを防ぐためには、利用規約の中で、「準拠法は日本法とする」と定めておく必要があります。
準拠法とは、トラブルが発生した際に適用される法律はどの国のものか、ということです。この準拠法を、日本法にしておけば、海外所在のユーザーとトラブルになっても、日本法が適用されるので(例外もありますが)、ややこしいことにならずに済むのです。
海外展開に力を入れている会社さんはもちろんのこと、まだ海外展開を考えていない会社さんも、準拠法は、きちんと日本法にしておきましょうね。
発信者情報開示請求が来た!どう対処すればよいの?
さて、皆さんは「発信者情報開示請求」という制度はご存知ですか。ほとんどの方は、「何だそれ?」と思うかもしれませんが、コンテンツ投稿型のWEBサービスを運営している会社の中には、「以前、そんな請求が突然会社に来て、びっくりしたことがある」という方も、いるかもしれません。
この「発信者情報開示請求」は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」通称「プロバイダ責任制限法」という法律(業界人は「プロ責法」と略します)で、定められた制度です。
このプロ責法は、コンテンツ投稿型のWEBサービスなどで、他人の権利を侵害するようなコンテンツが投稿された場合(例えば、他人の著作物を投稿して、著作権侵害をしている場合や、他人を誹謗中傷する投稿をして、名誉権を侵害している場合など)の、WEBサービスの運営者の責任について、色々と定めています。
その中で、権利を侵害された人が、権利を侵害した人(違法コンテンツの発信者)が誰なのかを確認するために、WEBサービスの運営者に対して、投稿者のIPアドレスなどを開示するよう求めることができる制度が、定められています。
これが、「発信者情報開示請求」なわけでして、近年、法律で定められた制度なのです。
「なるほど、それならば、発信者情報開示請求が来た以上は、すぐに発信者の情報を開示しないといけないのか」と思ったら、それは気が早すぎます。実はこの「発信者情報開示請求」、一筋縄ではいかない制度でして、下手に発信者の情報を開示してしまうと、WEBサービスの運営者が、その発信者に対して、責任を負うことになりかねないのです。
そもそも、発信者情報開示請求が認められるためには、プロ責法が定める、以下の①~③の要件を満たす必要があります。
- 情報の流通自体によって権利が侵害されていること
- 開示を求める正当理由があること
- 権利侵害が明白であること
そこで、この三要件を検討すると、
① 情報の流通自体によって権利が侵害されていること
これは、情報が流通すること自体で、被害者の権利が侵害されることが必要です。掲示板への名誉毀損的な書き込みなどが、典型例です。ちなみに、攻撃的な意図による不正アクセスは、あくまでも、不正アクセスによって被害が生じているものであり、情報の流通によって被害が生じているのではないので、この要件を満たしません。
② 開示を求める正当理由があること
これは、「発信者に対して損害賠償を請求するために」といったものでも、正当理由に当たります。そのため、わりと認められやすい要件です。
③ 権利侵害が明白であること
問題は、この要件です。というのは、名誉を毀損する(=社会的評価を低下させる)表現であったとしても、ただちに「権利侵害の明白性」の要件が認められるわけでは、ないのです。実は、名誉を毀損する表現であったとしても、
a 社会における感心事といえる事実であり
b 表現が社会のためになされたものであり
c 表現が真実である場合
は、違法な名誉毀損ではない、とされているのです。
例えば、とある会社で、残業代不払いや、社長によるセクハラ・パワハラが横行していて、それを内部告発する書込が、転職サイトの掲示板でなされた場合を考えてみてください。会社内での労働環境や、労働基準法が守られているかどうかは、
a 社会における感心事といえる事実であり
といえますし、転職者のための情報提供であれば、
b 表現が社会のためになされたものであり
といえますし、その書き込み通りの事実があれば、
c 表現が真実である場合
といえます。
もちろん、単なる嫌がらせ目的の、事実に反した名誉毀損の場合もありますが、上の例のように、違法な名誉毀損ではない場合も、ありえるのです。
そして、サービス運営者側で、この書込が違法かどうか(権利侵害の明白性の要件が認められるかどうか)判断することは、実際には難しいです。そのため、発信者情報開示請求に迂闊に応じて、発信者の情報を開示すれば、プライバシー権の侵害や、通信の秘密の侵害が、問題になってしまうのです。
それでは、発信者情報開示請求が来たら、どう対処すればいいのでしょうか。
いきなり答えを言ってしまうと、基本的には、開示請求に応じなければいいのです。だって、違法な名誉毀損かどうか、サービス運営者側で判断するのは、難しいのですから。
それに、発信者開示請求に応じなかったことで、サービス運営者が、開示請求者に対して、法的な責任を負った、という話は、あまり聞いたことがありません。それならば、開示請求者には悪いですが、自社が余計なトラブルに巻き込まれないためにも、基本的には開示請求に応じない、というスタンスが、リスク管理としてよいと思います。
もっとも、開示請求者に危害を加えるような犯罪予告や、誰がどう見ても違法な誹謗中傷の類いであれば、開示請求に応じるべきではあります。
それから、プロ責法には、発信者開示請求の他に、投稿の削除請求についても規定されています。そして、発信者開示請求は、この削除請求とセットで行われる場合が多いです。この、削除請求については、基本的には、応じてしまえば良いのです。
発信者開示請求には応じないが、削除請求には応じる、という異なる対応でも、問題はありません。というのは、発信者開示請求に応じると、プライバシー権や通信の秘密の侵害が問題になりますが、削除請求に応じても、これらは問題にはなりません。また、投稿者としても、投稿を削除されたところで、他のWebサービスに改めて投稿することはできるので、表現の自由はさほど侵害されないからです。
以上、まとめたとおり、サービス運営者としては、発信者開示請求には基本的には応じないが、削除請求には基本的には応じる、というスタンスで対応するのがよいです。そのためにも、利用規約の中で、他社の権利を侵害するコンテンツの投稿を禁止するとともに、サービス運営者が、任意に投稿を削除できることを、規定しておきましょう。
禁止行為と、それに違反した場合のペナルティを、利用規約に規定しておきましょうという話は、上でも解説しましたが、こういう時にも役に立つ規定なのですね。
あなたのポイントサービスは違法です!
フリーミアムモデルでない限り、WEBサービスは、基本的に、ユーザーからの課金でマネタイズしています。この課金の方法について、事前にポイントを購入してもらい、そのポイントを消費してもらうやり方にしているサービスがあります。
このやり方は、代金未回収リスクを防ぐことができますし(先払いなわけですから)、結局ポイントを使い切らずに終わってしまうユーザーも一定数いるため(その分サービス提供コストが発生しません)、会社側には色々とメリットがあります(その代わり、ユーザーが気軽にサービスを利用しにくいため、ユーザー数を増やしにくいというデメリットもありますが)。
この事前購入型ポイントを、何の手続きもせず、何気なく導入している会社も多いです。しかし、実はそのやり方、資金決済法に違反した、違法なビジネスになります。
WEBサービス上の事前購入型ポイントについて、資金決済法は、「前払式支払手段」と定義づけて、色々な規制を定めています。具体的には、以下のような規制です。
- ポイント発行を開始して以後、基準日(3月31日及び9月30日)での未使用残高が1000万円を超えた場合、2ヶ月を経過する日までに、金融庁長官に対して、届出を行う義務を負う(第5条第1項、府令第9条)
- 発行者の名称など、一定の事項を表示又は提供する義務を負う(第13条)
- 基準日において、ポイントの未使用残高が1000万円を超えるときは、その未使用残高の2分の1以上の額に相当する金銭を、基準日の翌日から2ヶ月以内に、保証金として、供託所に供託する義務を負う(第14条第1項、施行令第6条、府令第24条第1項)
- サービスの全部又は一部を廃止した場合など、一定の場合には、ポイントの未使用残高分を返金する義務を負う(第20条第1項)
- 上記の場合などを除いては、原則として、ポイントの未使用残高分の返金が禁止される(第20条第2項)
- 行政の監督を受ける立場となり(第22条から第29条まで)、基準日ごとに、金融庁長官に対して、報告書を提出する義務を負う(第23条第1項)
どうです?とても手間のかかる規制でしょう。
しかも、これに違反した場合は、罰則まであります(届出義務違反の場合は、六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金またはこれらを併科されます)。
「なんてことだ!うちの会社のポイント制度は違法だったのか!どうすればいいんだ!?」と慌てるのは、まだ早いです。実は、この資金決済法の規制を回避する手段があるのです。
その方法とは、ポイントの有効期限を6ヶ月以内にすれば良いのです。
実は、資金決済法は、発行の日から6ヶ月以内に限り使用できる前払式支払い手段については、適用対象「外」としているのです。というわけで、利用規約の中で、「ポイントの有効期限を6ヶ月以内にする」と規定しておけば、それだけで、資金決済法の面倒な規制を回避できるわけです
とはいっても、有効期限を設けるということは、会社側で、ポイントの購入日と有効期限の管理が必要になり、手間がかかります。また、ユーザが、有効期間の短いポイントを嫌がり、サービスを利用してくれないかもしれません。
有効期限を設けて資金決済法の規制を回避するか、それとも、有効期限は設けずに(あるいは6ヶ月超にして)資金決済法の規制を遵守するかは、十分に検討の上、判断してください。
ちなみに、資金決済法の対象となる「ポイント」とは、あくまでも「購入」型のポイントです。何か商品を買ったり、アクションを起こしたときに「付与」されるポイントは、資金決済法の対象にはなりません。したがって、「付与」型のポイントサービスを運営するのであれば、資金決済法の問題を気にする必要はありません(そのかわり、今度は景品表示法の問題が出てきますが。)。
Webサービスには、皆さんが知らないような法律の規制や、法律の問題が、沢山あります。これらに対処するためには、きちんとした利用規約を作る必要があります。
今回の記事は、利用規約の中でも特に重要な箇所に絞って解説をしましたが、他にも気になる所があって利用規約の作り方で悩んだら、いつでも私にご相談ください。御社のWebサービスを守る利用規約を、お作りします!