BtoBのオンライン化・BtoB ECに取り組む製造業が増えている

✓取引の都度、発注書や請書を取り交わすことが面倒だ

✓コロナ禍で展示会や訪問営業の機会が失われている

✓販売活動を代理店任せにしてきたため、顧客との接点を持てず、顧客のニーズや課題をキャッチアップできない

✓商圏を全国に拡大したい

✓BtoB通販を始めたい

こういった課題を解決するため、オンライン上で受発注ができるシステムを開発したり、オンライン上でマーケティング施策を実施することで、オンライン上で顧客を開拓したり繋がるような、BtoB ECを始めようとする製造業の方が増えています。

ですが、BtoBのオンライン化・BtoB ECを始めると、今まで接点のなかった顧客と取引をすることになります。

そのような顧客が相手となると、これまで付き合いのある顧客からは来なかったような無茶な要求や過剰な責任の追求を受ける可能性があります。

利用規約で自社を守る必要がある

そのため、利用規約で自社をきちんと守る必要があります。ですが多くの製造業の皆さんの手元には、一般的な売買契約書の雛形しかなく、ECの利用規約をどうやって整備すれば良いのかが分からないのではないでしょうか。

ネットに転がっている雛形を参考にしようにも、一般的にECビジネスの規約の雛形はBtoCの内容であり、BtoBには適さない部分が多く、あまり参考になりません。

ましてや、2020年4月に民法が改正され、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わったことなどから、民法改正の内容を踏まえた上で、自社(売主)の責任を適切に制限する利用規約をどう作成すればよいのか、頭を抱えていると思います。

そこで、この記事では、BtoBのオンライン化・ECを始める製造業に必要な利用規約の規定について、特に重要な3つのポイントを解説します。

ポイント1 契約の成立時期を明確に定める

ECビジネスで大きなリスクの一つは価格設定ミスです。価格表示の0が一桁足りなかったばかりに90%オフの誤表示価格になってしまい、その金額を前提に大量注文を受ける事態となれば大変です。

これはなにも価格設定ミスの場合だけでなく、例えば在庫切れの商品をECサイト上に残していて、注文を受け付けてしまった場合や、受注後の製造・輸入を前提に注文を受けたが、工場の稼働や輸入の問題で納入が難しくなった場合でも、同様の問題が起きてしまいます。

しかし、そもそも「その価格でその商品を販売する」という内容の契約が成立していなければ、売主はその価格で販売する義務を負いません。そして、買主がECサイト上の購入フォームに必要情報を入力して送信した段階では、まだ買主から売主に注文が出されただけなので、契約は成立していません。契約は、買主からの「注文」に対して売主が「承諾」することで、成立するからです。

ECで、いつの時点で契約が成立する(=売主が注文を承諾したことになる)かについては、まずは注文受付画面や注文受付時の自動送信メールの記載内容から判断されることになります。「注文を承諾しました。納期はいついつになります。」という記載があれば、その時点で契約は成立することになります。

しかし、注文受付画面や注文受付時の自動送信メールの記載ではいつの時点で売主が注文を承諾したことになるのか明確でない場合は、利用規約の記載から判断されることになります。

そこで、利用規約には、注文受付画面や注文受付時の自動送信メールの内容と整合性が取れる内容で、以下のような規定を入れて、契約の成立時期を明確に定めるべきです。

第*条(契約の成立)

売買契約は、当社が、購入者の注文を受信し、入力された情報、代金、納品までの所要日数、その他必要事項を確認の上、購入者に対して商品を納品する旨の連絡をしたときをもって、成立するものとします。なお、注文受付画面の表示や注文受付時の自動送信メールの時点では、売買契約は成立しません。

ポイント2 売主から契約を取り消せる権利を定めておく

BtoCのECでは、ポイント狙いやいたずらで注文キャンセル・受領拒否を繰り返す人が一定数います。そのような人からの注文を承諾してしまった場合に、売主が契約を守る(商品を発送する)義務を負わされて、キャンセルされる(あるいは受領を拒否される)ことが明らかであるにも関わらず、発送の準備を進める(実際に発送までする)ことは不毛なので、一定の場合に売主から契約を取り消せる権利を定めておくことが重要になります。

一方で、BtoBのECの場合、買主は法人(あるいは個人事業主)なので、そのようなことをしてくるリスクは低いため、売主から契約を取り消せる権利を定める、という発想になりにくいかもしれません。

ですが、最近はコロナ禍で工場の稼働が止まってしまったり、海外から部品や材料の輸入が滞る事態が増えています。そうなると、予定された納期までに商品を納入できない(いつ納入ができるかの見通しも立たない)ことになりかねません。

そのような場合に、売主から契約を取り消せる権利を定めておかないと、買主にお願いをして契約を合意解約せざるを得なくなります。しかしそうなると、買主からその補償や、商品が納入されないことで生じる損害の賠償を求められる可能性があります。

そこで、利用規約には、以下のような規定を入れて、売主から契約を取り消せる権利を定めておくべきです。

第*条(契約の取消)

当社は、売買契約成立後といえども、以下の事由が生じたことで納期までの納入が困難となった場合、売買契約を取り消すことができるものとします。購入者は、これに対して異議を述べず、当社が何らの責任を負わないことを予め了承します。

(1)運送又は輸出入で遅延又は混乱が生じた場合

(2)商品の製造委託先の製造に遅延又は不具合が生じた場合

(3)納入に先立ち購入者に回答を要する事項が生じ、当社が定める期限内に必要な回答が行われなかった場合

(4)疫病・感染症の流行が生じた場合

ポイント3 契約不適合責任の内容を制限する

2020年4月に民法が改正され、「瑕疵担保責任」という売主の責任に関する制度が、「契約不適合責任」に変わりました。

瑕疵担保責任とは、商品が不良品であった(「瑕疵」があった)場合に、売主が買主に対して損害賠償義務を負ったり、買主から契約を解除されるという責任です。

買主保護のための制度であるこの瑕疵担保責任ですが、損害賠償や解除はできるとして、瑕疵の修補や、瑕疵のない商品との交換ができるかについては、はっきりしませんでした。また、買主が代金の減額を請求することは、限られた場合にしか認められていませんでした。

このように、瑕疵担保責任は買主にとってイマイチ使い勝手の悪い制度であったため、民法改正では、瑕疵担保責任の内容を見直して、責任の内容を明確に、そしてより重くされることになりました。

ちなみに、「瑕疵担保」という用語が「契約不適合」に変わったのは、商品に不良品があった場合だけでなく、商品の種類、品質又は数量その他契約で合意した内容と不適合があった場合全般における売主の責任をまとめた制度に再構成されたからです。

契約不適合責任において、具体的に売主がどのような責任を負うかというと、契約不適合が生じた原因が売主と買主のどちらにあるかによって変わってきます。

整理すると、以下のようになります。

 

買主の権利 買主に原因あり 双方に原因なし 売主に原因あり
損害の賠償    ✕    ✕    ◯
解   除    ✕    ◯    ◯
追完の請求    ✕    ◯    ◯
代金の減額    ✕    ◯    ◯

 

このように、売主は民法改正によって今まで以上に重い責任を負うことになったわけですが、法律の原則は契約(利用規約)によって内容を変更することが可能です。特にBtoBの場合、BtoCの取引における消費者保護の必要性がないため、お互いが合意さえすれば、法律の原則を大幅に変更する(契約不適合責任の内容を大幅に制限する)ことも可能です。

そこで、利用規約には、以下のような規定を入れて、契約不適合責任の内容を制限しておくべきです。

第*条(契約不適合責任)

1 商品に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)があったときは、当社は、当該本商品の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入のいずれかの方法による履行の追完を、当社の任意の選択で行うものとする。但し、当該契約不適合が購入者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、当社はかかる責任を負わない。

2 前項本文の場合において、購入者が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

3 当社が契約不適合のある商品を納入した場合において、購入者が納入時から1か月以内にその旨を当社に通知しないときは、購入者は、当該契約不適合を理由として、第1項又は前項に規定する権利を行使することができない。

4 商品の契約不適合に係る当社の責任は、第1項及び第2項に定める範囲に限られるものとする。

まとめ

以上の3つのポイントを押さえて、自社を守る万全な利用規約を整備してみてください。