利用規約は自由に変更ができるのか

Webサービスをリリースした後になって、利用規約を作った当初は想定していなかった事態が生じることはよくあります。その場合、利用規約を変更したいところですが、サービスを提供する事業者が、後になって利用規約を変更してもよいのでしょうか。

そもそも、利用規約は、事業者とユーザーとのサービス利用契約の内容を定めた「契約書」としての位置付けです。そして、常識的に考えれば、契約書の内容を、一方当事者が自由に変更できるわけがありません。法の原則でも、契約内容の変更は両当事者が合意することが必要です。

原則として各ユーザーの同意が必要

そのため、利用規約の変更にあたっては、本来であれば、各ユーザーから個別に同意を取らないといけないことになります。とはいえ、ユーザーが大勢いるWebサービスで、そんなことは現実には無理です。

そこで実務的には、各ユーザーから個別に同意を取らなくても、利用規約の変更を事前にきちんと告知して、その上でユーザーから異議が出ずに、その後も利用が継続されたら、利用規約の変更に同意したと評価できる、とされています。皆さんも、利用しているサービスについて、利用規約の変更を告知するメールが届いたことがありませんか。

異議を出してきたユーザーには利用規約を変更できない

ただ、このやり方で問題となるのは、異議を出してきたユーザーに関しては、利用規約を変更できないということです。

そうなると、ユーザーごとに、適用される利用規約のバージョンが異なることになるので、管理が非常に面倒になってしまいます。

かといって、異議を出されないようにこそっと利用規約の変更を告知すれば、きちんと告知されたいないので同意があったと評価できない、ということになってしまいます。

民法改正前は、自由に変更できる規定を入れて対処していた

この問題に対処するため、これまでは利用規約の中に、事業者が利用規約を自由に変更できる、という規定を入れて対処しているケースが多かったです。

例えば、以下のような規定です。

(規約の変更)

1 当社は、その理由を問わず本規約をいつでも任意に変更することができるものとし、ユーザーはこれに同意します。

2 当社が別途定める場合を除き、本規約の変更は、本サイトに掲載する方法によってユーザーへ通知します。

3 本規約の変更は、前項の通知において指定した日付より効力を生じるものとします。

しかし、このような規定はユーザーにとって不利です。ユーザーの知らないところで、一方的に利用規約が変更されてしまうので。そのため、このような規定だけを根拠に自由に利用規約を変更することは認められないのではないか、という議論が以前からありました。

民法改正により、自由に利用規約を変更することはできなくなった

さて、2020年4月に改正民法が施行されました。改正箇所は多岐にわたりますが、その中の1つとして、Webサービスの利用規約のような、企業が不特定多数の契約相手との契約条件を定めた条項の総体(改正民法では「定型約款」と呼んでいます)について、その変更に関するルールが定められました。

どういうことかというと、利用規約の中に、事業者が利用規約を自由に変更できるという規定を入れていても、自由に変更できるわけではなく、改正民法で定められた定型約款変更のルールに従わないといけない(裏を返せば、ルールに従えさえすれば、ユーザーの同意がなくても利用規約を変更できる)、ということを明らかにしたのです。

では、具体的にどのようなルールが定められたのでしょうか。

ユーザーの同意がなくても利用規約が変更できる場合 ①利益変更

まず、利用規約の変更が全部のユーザーにとって利益になるとき(利益変更)は、ユーザーの同意がなくても利用規約を変更できます。

たとえば、サービス内容が増えるとか、事業者の責任をより重くするといった場合です。

ユーザーにとって利益である以上、ユーザーの同意がなくても利用規約の変更を認めて師匠がないからです。

ユーザーの同意がなくても利用規約が変更できる場合 ②不利益変更

一方で、利用規約の変更が全部又は一部のユーザーにとって不利益になるとき(不利益変更)は、そうもいきません。

たとえば、事業者の責任をより制限するといった場合です。

この場合は、

① 契約をした目的に反しないこと

 

② ⅰ 変更の必要性

ⅱ 変更後の内容の相当性

ⅲ 利用規約における変更条項の有無・

ⅳ その他の変更に関する事情

 

これらに照らして合理的なものであるとき

という条件を満たす場合は、ユーザーの同意がなくても利用規約を変更できます。

ユーザーの同意なしで利用規約を変更する際の手続き

というわけで、利益変更の場合、または、不利益変更で上記の条件を満たす場合は、ユーザーの同意がなくても利用規約を変更できるわけですが、改正民法では、いずれの場合についても、変更に際しての手続きのルールも定めています。

具体的には、

① 変更後の利用規約の効力発生時期を定めること

② 変更後の利用規約の内容と効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知すること

という手続きを踏む必要があります。

利用規約の中には、利用規約をユーザーの同意がなくても変更できる旨の条項が入っているケースが多いと思いますが、民法改正の内容に合わせて、利用規約の変更に関する条項についても見直しを検討する必要があります。

改正民法に対応した利用規約の変更に関する条項

改正民法に対応した利用規約の変更に関する条項は、以下のような内容にすればよいでしょう。

第◯条(本規約の変更)

 

1 当社は、以下のいずれかの場合に、本規約をいつでも任意に変更することができます。

(1)本規約の変更が、ユーザーの一般の利益に適合するとき

(2)本規約の変更が、ユーザーが本サービスを利用する目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

 

2 当社は、前項による本規約の変更にあたり、本規約の変更の効力発生日の2週間前までに、変更する規定の内容及び変更の効力発生日を、本サービスに掲載する方法により、これを周知します。

 

3 ユーザーが本規約の変更を同意しない場合、ユーザーの唯一の対処方法は、本サービスの利用を終了することのみとなります。ユーザーが、前項の通知において指定した日付までに上記削除を行わない場合、本規約の変更に同意したものとみなします。

おわりに

みなさんも、自社のサービスの利用規約の中の、利用規約の変更に関する条項を確認し、上記のような条項に見直しておいてください。