世界の主要都市に10件しかない最高級ホテルブランド「ペニンシュラ」の旗艦店「ペニンシュラ香港」で、日本人でありながら宿泊部の部長として活躍されている筆口さんに、ペニンシュラの秘密を聞かせてもらいました!
・ペニンシュラを物語るキーワードは4つ。「Heritage」「Owner Operator」「Hardware」「People」
Heritage
・伝統が大事。だからこそ世界の主要都市にまだ10件しか建ててない。モダンな作りの建物なら簡単に建てられるけど、そうそう増やさない
・伝統を守るための主な指針→
・1都市1件(世界10都市で10店舗しかない。今後は、2020年か2021年にトルコのイスタンブール、イギリスのロンドン、ミャンマーのヤンゴン、の3エリアに開業予定)
・最高の立地(東京のペニンシュラは10年探して三菱地所と契約に至った)
・パーソナルサービスを提供するために最適な規模(原則300以上の部屋は作らない)
・気品(ユニフォームは黒でシック。全世界統一)
・各ホテルが独自の個性(「クッキーカッター」のような画一的なホテルにはしない)
・ビジネスホテルではなくリゾートホテルだとの位置付=ペニンシュラ・スパを各ホテルに用意している(コンベンションシティであるシカゴだけはビジネススタイルのホテルで、スパはない)
Owner Operator
・香港上海ホテルズ社が運営。1866年に設立。1868年に「ザ・香港ホテル」を開業
・ホテル部門、商業施設部門、クラブ&サービス部門、の三部門を運営
・オーナーのユダヤ系のカドゥーリー一家(特に家長であるサー・マイケル・カドゥーリー)の一存で運営が決められている
・現場からすれば、上申する先(連絡系統)がシンプル。現場→マネージャー→総支配人→オーナー、という流れ。そしてオーナーが決定すれば、即実行
Hardware
・備品を購入するときは、最低40年は持つものを買え、と言われる。初期投資は惜しまない
・「Roomer Technology」 =部屋のテクノロジーを研究する部門がある
・全世界の各ホテルの部屋の設備の操作性が統一されている。コントロールパネルが電子パネルになっていて、顧客の国籍に合わせた表示言語になっている
・全てのデバイスに対応したマルチチャージャー(充電器)が用意されている
・中国では風水的に部屋内に鏡を置くのはよろしくない=ボタンを押すと、テーブルの中に収納されている鏡が出てくる仕組み
・1億2000万円のカスタムロールスロイスが名物。ペニンシュラ香港には14台ある
People
・ペニンシュラ香港は90年営業しているが4代働いている人もいる。従業員を大切に
・著名な写真家に、社員と家族の集合写真を撮影して、社員にプレゼントすると共に、玄関に飾っている
・従業員は2018年現在全世界で約8000人。ペニンシュラ香港は全社員が正社員。
・ペニンシュラ香港は、香港のホテル業界の中で12年連続最小
・香港は定年が65歳。しかしペニンシュラ香港では、定年後も本人が希望すれば同じ部署で1年契約毎で引き続き働くことができる。例えばバーテンデーのジョニーは61年勤務してる
・トレーニングを重視。トレーニング部門に在籍している社員が一番多い。部門長と社員とその家族が食事をしたりすることも多い
・環境保護を重視。プラスティックやペットボトル製品を排除。フカヒレも提供しない
・障害者も雇用。白い制服を着たドアマンは耳が聞こえない人
・ペニンシュラ香港の社員(現場スタッフ。マネジメント部門を除く)の平均月収は日本円で25万円。相場からすれば良い金額
4つのキーワードを教えてもらった後、普段は立ち入ることのできないエリアなども案内してもらえました。
・Felix Restaurant
最上階の展望レストラン&バー
椅子には長く勤めている社員の顔写真が印刷されている。社員に対するリスペクトと、顔を出してるんだからきちんとサービスを提供してねというプレッシャー
レストランはむしろ地元の人の利用が多い
・Peninsula Suite
1泊250万円の最高級スイート
リピート率が高い。だから飽きられないように5年に1回リニューアルしてる
・Music Room
2年前までは、ホテルの貴重品が倉庫に仕舞われてて、勿体無いなということで、一室を改築して展示室になった
・Engineering
備品のメンテナンス(家具にニスを塗るとか)も館内でやってる(アウトソーシングしてない)
害虫駆除の薬剤頒布は免許が必要なので、それだけはアウトソーシングしてるけど
・Chui Dim
社員食堂。「Gathering point」という意味。マネージメント層も含めて皆ここで食べる
全体で200人以上入る
朝昼晩真夜中の4回提供
無料。何回食べてもいい
・Chocolate Room
ペニンシュラ香港のチョコは有名。香港で高級、細工チョコを作り出した先端事例
チョコレート部門はパテシエ部門とは別
1人のチョコレートマイスターが監督して作ってる
最後に僕から、「先進国の都市部の若者は、お金を持っていても過剰な消費は行わない傾向にある。テクノロジーを駆使して低コストで済ます。彼らを取り込むための施策はあるか」と質問させてもらいました。
(回答)
ホテルエリアの地域活性。イベントをやったり。それによって、ホテルエリアに人を集めて、そこからペニンシュラ香港を選んでもらう。ホテル単体で人を集めるのは容易では無いので。更に若者対策として、インフルエンサー向けの施策もしている。先週も、日本のインフルエンサー2家族を1週間招いて、色々とSNSにポストしてもらった。あとは旅行会社に地道に売り込んだり
また、稼働率と価格帯についてお聞きしたところ、あえて香港で最高価格に設定している。2位の価格より3万円ほど高い。そのぶん稼働率は下がるが(他の高級ホテルの稼働率は95%程度、ペニンシュラ香港は75%程度)、その分余裕を持って対応して質を重視。一番安い部屋でも1泊8万円程度。とのことでした。
以前に世界最大級のホテルグループのマリオットの方にお話を聞いたこともありますが、グローバルブランドのホテルグループの取り組みで共通しているのは、家族経営、従業員を大切にした企業姿勢ですね。
安心が約束された雇用環境が、高品質なサービスを生み出すのでしょう。