ミャンマーでハウスキーピングサービスの事業を2016年に立ち上げられた村上由里子さんとお会いしてきました。

縁もゆかりも無いミャンマーで、一人でビジネスを始められた凄い方でして、ユニークな経歴を持たれていて、ミッションドリブンで経営をされていて、その力強い言葉に痺れました。

とにかくお話が面白かったので、ぜひぜひ皆さんにも知ってもらいたいです。

・ミャンマーの首都ヤンゴンで、ビジネスパーソン(主に法人駐在員)のためのハウスマネジメントサービスを提供する「HerBEST」を経営している

・発展途上国に興味があり、新卒で海外青年協力隊でルワンダにわたった

・その時に感じた課題。それは海外青年協力隊のメンバーが2年の任期の中で立ち上げた事業が、メンバー帰国後、ことごとくたち消えていくこと。石鹸販売とか、クッキー販売とか。

・それはなぜか。現地の人間がその事業にコミットしていないから。とりあえず海外青年協力隊のメンバーが音頭を取って活動している間は、現地の人間もそれに付き合うが(ちょっとしたお金も入ってくるし)、彼らがいなくなったあと、自分たちで巻き取ってやる気にはならない。そんなに儲かるものでもないし、軽いノリで付き合った事業だから、音頭を取る人がいなくなったらフェードアウト

・これでは途上国支援にならない。ちゃんと儲けが出て、現地の人間がコミットする事業をやらないと。そこで考えたのがホテル事業。現地の人間でお金のある人に2500万円を出資してもらい、立ち上げに奔走して、開業にこぎつけた。出資者は身銭を切っているので、村上さんが任期満了で帰国したあともちゃんと引き継いで、ホテルは今もちゃんと経営されている

・ただ、これは青年海外協力隊の中で決められた活動では全然なく、しばらくは難色を示されていた。しかし、決まりとか前例がどうとかではなく、自分が価値がある、やる必要があると考えたことをやっただけ。最終的には青年海外協力隊も活動を認めてくれた

・ホテルの立ち上げは成功したが、そもそもホテル経営のノウハウ、オペレーションも全然知らなかった。帰国後、それを学ぼうと考えた。どうせ学ぶなら、日本でもトップクラスのホテルブランドである星のやだ、と考え、星のや京都で働いた

※実はその時期、僕と妻は星のや京都に行っていて、そのときに朝ヨガを担当されていた方が、もしかしたら村上さんかも(なんとなく見覚えが)。もしそうなら、まさかこんな形で再会するとは…

・2年半働き、十分に学んだので、いよいよ途上国支援の事業を始めようと考え、退職した

・再度ホテル事業をやろうとは考えなかった。それは、実はホテル事業はそれほどの雇用を産まないから。ルワンダのホテルだって、スタッフ5名で回せるし、星のや京都はスタッフの人数は多かったが、それは莫大な設備投資をして大きな箱を用意したから。一人の雇用を生むコストで考えたら、コスパは悪い

・そこでハウスキーピング事業だと考えた。星のや京都での大部分の仕事は清掃で(宿泊客を対応している時間以外は、とにかく清掃、清掃、という感じ)、清掃のノウハウが溜まっていたことと、ハウスキーピングなら、箱(設備)は不要(顧客の家に行って仕事をするので)、ノウハウと顧客さえあれば、いくらでも雇用を生み出せる

・ただ、「清掃」みたいな位置づけではいけない、と考えた。それだと参入障壁が低く、競合も多いし、安かろうの競争になってしまう。

・それに、途上国では清掃の仕事は、学歴も職能もない人がする下層の仕事と考えられ、社会的地位が低かった。途上国支援、特に女性の社会進出支援がしたかったので、彼女らが誇りを持って仕事ができるようにしてあげる必要があった

・そこで、「HerBEST」は清掃サービスではなく、ハウスキーピング、その人の生活を整えるお手伝いをするサービス、と位置づけた

・ミャンマーを選んだのは、途上国でどこにしようか選ぶために、まずラオスに行って、次にミャンマーに行ってみて、ここだな、と感じるものがった。別にミャンマーに縁もゆかりも無かったし、市場分析をしたとかそういうのではなく、直感的なものがあった

・ウェブサイトはペライチでコストをかけずに作ったが、センスの良いデザインにしているし、自社のミッションがしっかり伝わるよう、表現の一つ一つを徹底的に拘っている

・スタッフのユニフォームも白の麻のシャツで統一している

・スタッフの研修に非常に力を入れている。先進国の人間とミャンマー人とでは、「汚い」「綺麗」という価値観が極端に違う。たとえば、我々はトイレとキッチンを同じ布で拭くというのは考えらえれないが、そういうことから教育しないといけない。最初の一か月はアイロンがけなどバックオフィスで訓練する

・ミャンマーには家政婦紹介業者は多いが、その教育は顧客任せ。トラブル(盗難や破損等)があっても顧客が対応しないといけない。圧倒的なサービスクオリティが差別化要因

・だから費用は他の「清掃業者」と比べると高いが、そもそも提供しているサービスが違う

・現在(注:2018年時点)、ミャンマー人スタッフは10名。これまでの離職者は1名で、その人も妊娠で辞めざるを得なかった。スタッフの中には、途中で脳梗塞で倒れて障害が残った人がいるが、復職し、できる範囲で仕事をしてもらっている。離職率が極めて高いと言われている(お昼休憩で出ていってそのまま帰ってこなかったという話も!)ミャンマーで、驚異的に高い定着率を実現している

・女性の社会進出を支援し、ハウスキーピングの仕事をクールにするために、給与は相場よりもだいぶ高く設定している。ただ、だからといって採用がしやすいとかそういうわけではない。ミャンマーでは、怪しげなブローカーが良さげな条件で人を集めて騙したり人身売買をしたり、ということが日常茶飯事なので、よくわからない外国人が、妙に高待遇な募集をかけたところで、怪しまれてしまう。

・そこで、自分で地方に足を運び、候補者と面談だけでなく、家に行って一緒に食事をして(ついでにお腹を壊して)、そんな地道な活動をしながら、少しずつスタッフを採用している

・採用した人の人間性、性格を変えることなんてできない。おこがましい。良い人を採用する、そこに尽きる。少人数の会社出し、信用商売なので、問題を起こすような人は絶対に採用できない。採用は慎重に見極めている

・ミャンマー人を雇用してみて、価値観の違いに面食らうことも日常茶飯事。会社に遅刻することがなぜ問題なのか。なぜ遅刻しそうなことを事前に連絡しないといけないのか。まずそこから徹底的に教えないとだめ ・

とはいえ、自分も価値観に凝り固まっていたことが気づくこともあった。例えば、当初は9時始業だったが、みな9時半に出社する。なぜ遅れるの?と聞いても、渋滞だといって、なかなか改善しない。

・そこで、ダメ元で10時始業にしてみた(終業を1時間後ろ倒しにした)。どうせ、今後は10時半に出社することになるのかな、と思っていたら、みな9時半に出社した。実際、交通渋滞はひどかった。それに、ハウスキーピングなのだから、それこそ顧客が不在の間に(帰ってくるまでに)仕事をすればいいのだから、始業が9時か10時かで特に問題はない。

・日本人の価値観では理解できない、イライラする事もあるが、仕組みを変える、先入観を捨てて見るだけで、解決できる問題もいっぱいある

・顧客満足度が高く、リピート率が高い。そもそも、スポットでの案件は受けていない。継続的なサービス提供が前提。なぜなら、単なる清掃サービスではなく、その人の生活を整えるハウスキーピングサービスだから

・顧客も選ばせてもらっている。HerBESTのサービスの価値を理解してくれる顧客とだけ付き合っている。これは京都の老舗料亭の方が徹底的に顧客を選んでいる(一回しか来ないのに要求がうるさい顧客ではなく、これからもずっと利用し続けてくれるお得意様を贔屓する)ことから学んだ

というわけで、ミッションドリブンでありながら、しっかりとした理論的バックボーンもあり、同じビジネスパーソンとして共感しきりなお話でした。 HerBESTは、絶賛業務拡大中とのことですので、ミャンマーでのビジネスに気持ちよく打ち込めるよう、生活を整えてもらいたい日本人の方は、ぜひお問い合わせください!

(HerBESTのウェブサイト)