ベラルーシのIT産業を支える「BELARUS HI-TECH PARK」(HTP)を訪問して、ディレクターのIVANさんからHTPの取り組みを伺ってきました。
ベラルーシのIT企業への支援策、とくに税制の優遇は尋常ではないです!
・HTPとは、2005年の大統領命令を受けて開設された、HTP内に入居したIT企業を支援する政府管轄区域(Administration of Belarus Hi-Tech Parkという機構が運営している)
・HTPに入居といっても、別にオフィス機能をHTP内に設ける必要はなく、登記だけしとけばよい
・入居できるIT企業のジャンルは現在36種類ある。最近追加されたジャンルだと、暗号通貨とか、自動運転とか、サイバースポーツとか
・首都ミンスクのHTPが一番大きいが、各地方にもある(各地方のIT企業も盛り上げていくために)
・HTPに入居したIT企業には国から様々な支援策を受けられる。その中でも特に優れているのが税制優遇制度
・入居企業は、なんと通常の法人税とVAT(消費税)が免除。売上(利益でない)に対して一律で1%が課税されるだけ!
(日本とはまだ租税条約を結んでいません)
・入居企業の従業員の給与に係る所得税は一律で9%。本来は13%だから4%も減税。特にエンジニアの給与は高額なので、 4%の差はかなり大きい
・あとは、「social protection」(社会保険料みたいなもの?)が、従業員1人当り一律で月額150USドル(これが、従業員負担で給与から控除されるのか、企業が別途負担なのか、ちょっとわかりませんでした)
・優秀な人材の流出は東ヨーロッパ全体の課題であるが(優秀な人材は英語が話せるし、ヨーロッパは陸続きなので、移住されやすい)、税制優遇によってエンジニアの可処分所得を上げることで、海外に移住する必要がなくなり、ベラルーシ国内でお金を使ってくれるので、国内の経済も活性化。だから海外に行ったけど帰国してIT企業で働く人もいるし、やっぱりベラルーシ人にはベラルーシが一番
・さらに、入居企業のうち、特定の条件を満たした企業に対しては、暗号通貨のマイニング、発行、買収、販売に関する行為は2023年まで税金が免除(2018年5月現在、マイニング事業を行う2社がこの免税措置を適用されている)
・しかも、入居企業は純粋ベラルーシ企業に限定していない。そもそもベラルーシでは「非居住者」の「外国人」であっても「100%株主」となって法人設立ができて、そして要件を満たせばHTPに入居できる!(政府としてどんどんベラルーシに進出して雇用を生んで欲しい)
・特に日本企業はIT大国としてのブランドがあるから、ぜひHTPに入居してもらいたい
・ここ10年でベラルーシではIT産業が大きく発達しているが、HTPがそのコアとなっている。東ヨーロッパのシリコンバレーとも呼ばれてる
・2018年5月現在、パークには約200社のIT企業が入居している
・ベラルーシはエンジニア人材の質も量も優れていながら低コストのため、ソフトウェアのアウトソーシング先としても非常に評価が高い。数多くのグローバル企業がベラルーシにアウトソーシングしている。世界アウトソーシング企業ランキングトップ100社のうち、なんと6社がHTP入居企業
・「アウトソーシング先を選ぶときは、まずはインド、それが難しければアメリカ、それでもダメならベラルーシに。」という言葉もあるくらい。難解な数学系のプロジェクトに特に強い
・HTP入居企業の中で最も有名なアウトソーシング企業が「EPAM」。2016年の売上高は約5.6億ドルで、GoogleなどのグローバルIT企業からも開発案件を受注している
・とはいえ、最近はアウトソーシングではなく、自社プロダクト開発の入居企業が増えている。その中でも数多くの成功例が出ている
・成功例1は、リアルタイム動画加工フィルターの「MSQRD」(前回投稿した記事で紹介した企業です)。Facebookが2016年に買収
・成功例2は、メッセンジャーの「Viber」。イスラエル人の2人の若者が創業したが、開発はベラルーシで、HTPに入居。楽天が2014年に買収
・成功例3は、ゲームメーカーの「wargaming」。代表作は「World of tanks」という世界的にメガヒットしている戦争ゲーム
・ベラルーシ国内で3万3200人がHTPの入居企業のビジネスに関係している。HTPで生み出された売上は1100億ドルに達している
・IT産業の発達のためには教育も重要。HTP内には、企業と組んだ大学のラボが80以上あるし、大学の研究開発部門が30以上ある
・HTPは2005年の大統領令を受けて始まり、2049年まで続くことが法律で決まっている。2017年まで、制度が大きく変わることなくやってきた(2017年12月の暗号通貨に対する優遇策の大統領令は、大きな変化だったが)。海外の企業からすれば、HTPの政策はシンプルで一貫しているので、安心して入居企業と組むことができる
・旧ソ連系の企業との契約となると、ややこしいイメージあるが、HTP入居企業とならデジタルコントラクトとか使えるので、シンプルに契約ができる
・これだけ魅力のあるHTPだけど、残念ながらまだ世界的なPRが十分でなくて、日本から注目されていないのは残念だ。ぜひ日本企業も進出して。ITというとエストニアが有名みたいだけど、エストニアで会社作るよりもこっちの方が全然いいよ
というわけでHTPの取り組みを詳しく聞きましたが、独裁国家で、小国で、失うもの(しがらみ)もなく、そしてIT産業にかけるしかないからこそ、大胆でフレキシブルな取り組みができるのだなと思いました。
それにしても、世界が高度にグローバル化する中で、優秀な人材の流出を防ぎ、外貨を獲得するために、国家の存亡をかけた(政策・経済の側面での)戦いが各国で繰り広げられていることを、強く感じます。