2017年末時点でのグループ全体の時価総額が約50兆円にもなる中国最大手のネット通販事業者Alibabaグループの本社と、創業者ジャック・マーが要人を招く際に使う迎賓館的な施設のジャック・マー書房に行ってきました。

「百年阿里」というスローガン。alibabaが百年続くという目標です

ジャック・マーは中国でカリスマ的人気を誇るビジネスマンで、日本で言うと孫正義的なポジションでしょうか。

ジャック・マーは元々は英語教師で、大学も決して一流大学ではなく、エリートビジネスマンとは程遠い生活をしていた中で、通訳の仕事で渡米したときにインターネットと出会い、1999年に資本金わずか2万ドル、スタッフ18人で、自宅のアパートでAlibabaを創業して、ネットビジネスを始めたそうです。

(創業間もない2000年に、孫正義が中国のITベンチャー企業の経営者達と面会した際にジャック・マーと出会い、わずか5分話しただけでその将来性を見抜き20億円の出資を即決したというエピソードでも有名です。その後の企業活の上昇は凄まじく、今やソフトバンクが保有するAlibaba株は10兆円近い含み益になっています)

Alibabaのメイン事業はECですが、今やそれだけではなく、リアル店舗展開、物流、金融、クラウドコンピューティング、ビッグデータ活用などの分野でも事業を展開しており、中国におけるAmazon的なポジションになっていますが、もはや「商流」「物流」「金融」の分野ではAmazonを先行しているほどです。

そんな苦労人としてのバックボーンから、また、プラス思考で強い信念を持ち、若い経営者を積極的に支援する姿勢から、中国の幅広い世代から尊敬を集めています。

そんなAlibabaの本社では、Alibabaのユニークな仕組みやオフィスのこだわりを聞きました。

各部署やイベント毎に「鎧」(ユニフォームTシャツ)を作ります

敷地は巨大なので、シェアサイクルがたくさんあります。オレンジのシェアサイクルは、アリババが出資するofoです

アリババの「逆立ち」(世界を違う視点で見よう)の文化。5年目の卒業に際しては、(本当に物理的な意味での)逆立ちができないといけません

シリコンバレーのIT企業みたいな雰囲気。若い社員が多くて活気がある!

会議室の名前は、ジャック・マーが好きな剣客小説のキャラクターの名前です

その後のジャック・マー書房では、Alibabaで11年働いている王さんから、こんな話を聞きました。

・中国の大手IT企業は一流大学を卒業した創業者が多いが、二流の大学を卒業し、英語教師として働いていたジャック・マーは平凡な精神を持っている

・「永遠に諦めない」という言葉がまだ英会話教室に残っている。沢山の挫折を経て、今にいたる。「絶対諦めない」と言った企業文化が根付いている

・3LDKのマンションで起業(1999年)

・NYでIPOしたとき、創始者チームに「なぜジャック・マーについていったの?」と聞いたところ、創始者チームであっても、創業当時にジャック・マーが言ったことは信じていなかった。でも、ジャック・マーという人物は信頼できた。だから信念に共感してマーについていった

・創業当時の求人広告では最先端のIT企業のような記載をしたので、エリートたちが募集をかけてきたが、実際はアパートの一室の怪しげ気な会社だったので、エリートはやめてしまった・残ってた人は平凡な人だと自分自身を評価していた人

・義理を持っている人は価値がある。思いと義理を持って、進んできた

・会社は順風満帆ではなく、2001年には残高が600万元しかなく、そのまま潰れてしまうところだった

・アリババは、100年をまたがる大きい会社になりたい。「100年Ali」というプロジェクトがある。

・2007,8年まで、ジャック・マー自ら、新卒の最後の研修をしていた。給料は約束できないけれども、大変なことがあることだけは約束できる。これは皆さんの成長になるでしょう、と伝えている

・平凡な社員でも普通ではないことができる。社員の行動を見れば、その会社の文化がわかる

・ジャック・マーは性善説。性悪説だと法に基づかなくてはいけない

・Alibabaはジャック・マーがいなくても同じようになる仕組みが必要。そのための仕組みが「六本刀」(剣客小説から取った仕組。ジャック・マーは剣客小説が大好きなので、そこから取った名前が多い(本社の会議室名とか、各社員のニックネームとか)

・Alibabaの文化を社員に落とし込むための人事考課制度がある

・文化を浸透させるためには、人事考課でもレベル分けする

・361という人事考課(社員を上位30・60・10%に分けている)

・数字に基づいて客観的に評価する

・頑張った人を評価し、奨励する

・コツコツ頑張る人=うさぎ。頑張っても、会社が期待している結果を出せない場合がある

・努力は良いと評価するが、しかし結果しか見ない

・結果を出した人には、昇進やオプションを与える

・文化・価値観と合わない人たちには何も与えない(むしろ辞めてください、という)

・企業文化がどれだけ浸透しているのか、というのが人事評価の項目になる

・Alibabaの社員は成長のスピードが早いから、ヘッドハンティングからよく声がかかる

・毎月面談があって、月単位でフィードバックがある。

・1年おきに昇格含めた人事評価をしている

・仕事の密度がハンパないので、成長をする

・顧客第一についての5つの評価ポイントがある

・1はできたけど、2〜5ができなければ0点

・デッドライン:一度でも「顧客第一」に違反したら、その時点で辞めされられる。チャンスは1回しかない

・会社は毎日変わっている。唯一変わらないのは「変化し続けること」

・Alibabaの社員でも、変化を受け入れられるようになるのは最低3年

・人事考課では、自分の成果を自己評価する。それを直属の上司が評価する。そしてHRと社員、上司と3人で面談を行い、コンセンサスをとる

・今日のベストは明日のスタートラインになる

・実績を上げた人にしか奨励金を上げない

・人材像を動物に例えている

・うさぎ:頑張っているけど実績がない

・野良犬:実績を上げているけど価値が少ない

・スター:実績を出して、会社の価値観にも共感している

 ※スターはすごいボーナスが出るし、表彰される。

・評価したい人にはとことん光を当て、デットラインの人を周知して、切る(透明性)。

・1年働くとローテーションの申請ができるようになる

・一緒に遊べる人としか仕事はできない

・入社日は記念日なので、1年・3年・5年をお酒に例えて(お酒が熟成されていくように)お祝いしている

・入社5年が経つと指輪がもらえる。もったいなくてつけられない

・アリババは学校的な文化もあり、同期で同窓会のようなものもやっている

・アリババでは文化を宗教のように信じている

・全てのアリババ社員が会社を作る。これがアリババ独自の魅力

Alibabaの社員の人たちから話を聞いて思ったのは、本当に社員の人たちがジャック・マーを尊敬し、敬愛し、崇めていて、もはや現人神として神格化されているということです。

Appleのスティーブ・ジョブズやAmazonのジェフ・ベゾスのような欧米のカリスマ経営者が毀誉褒貶があり、特に社員への当たりの強さから社内での評価が決して芳しくないこととは、大きな違いを感じました。

中国トップクラスの優秀な若者たちが、ジャック・マーの旗の下で一丸となって戦っているAlibabaが世界トップクラスの企業になったのも、よく分かります。

ジャック・マー書房には趣味の太極拳を練習するスペースがあります。奥のブルース・リー風の絵の顔はジャック・マー!