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給与前払いサービスの利用は気をつけよう

給与前払いサービスの利用は気をつけよう

給与の前払いが広まっている

最近「給与の前払い」を制度として採用する企業が増えています。

給与の前払いとは、企業が従業員の請求に基づいて、その従業員が既に働いた分の給与を、毎月決められた給料日よりも前に支払うことをいいます。

従業員が、これから働く分の給与を担保に会社からお金を借りる「給与の前借り」はこれまでにもありました。

ですが給与の前払いは、既に働いた分の給与が(給料日よりも前に)支払われるという点で、給与の前借りとは違うものです。

「なんでわざわざそんなことを?」と思うかもしれませんが、宵越しの金は持たないタイプの従業員の場合、給料日前に金欠になることがありますし、急な出費でまとまったお金が必要になることもあるので、たとえ数日早まるだけであっても、給料日より前に給与を受け取れることはメリットがあるのです。

これを受けて、企業側でも求人応募者数や定着率の向上を期待して、給与の前払いを制度として採用しているわけです。そのため、最近の求人メディアでは検索キーワードに「日払い」があるほどです。

さて、この 給与前払い制度を導入する場合、 企業が自社で制度を運用するのは難しいです。

給与前払いの手続きは通常とは違ったイレギュラーな対応をすることになるため、人的にもシステム的にもややこしいからです。

そのため、給与前払いサービスを提供する専門業者と契約し、制度運用を委託するのが一般的です。

ところが、この専門業者の中に、適法性の疑わしい会社があったりするのですね…。

そこで今回の記事では、給与前払いサービスの法的な問題点を分析しつつ、適法な業者の見極め方を解説したいと思います。

ペイミーは自社サービスの適法性を金融庁に照会した

さて、給与前払いサービスの適法性について疑問の声が上がるようになっていた中で、給与前払いサービス「Payme」を提供するペイミーが、「産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度」という制度を利用して、自社サービスの適法性について金融庁に照会したことが、昨年末に話題になりました。

グレーゾーン解消制度とは、新しい事業について活動しようとする事業者が、現行の規制が適用されるか不明確な場合に、具体的な事業計画に即して規制が適用されるかどうか、事前に確認できる制度です。 

2017年7月設立の同社は、給与前払いサービスを先駆けて提供を始めたことで知られています。

さて、結論から言えば、2018年12月20日付で同社は金融庁から「Paymeは貸金業には該当しない」との回答を得ました。

逆に言えば、給与前払いサービスは「貸金業に該当するのでは?」という点で、適法性が疑われることが多いのですね。

そこで次回からは、まずは法的な観点から給与前払いサービスの仕組みを改めて解説し、それと照らし合わせる形で、金融庁の回答の中身を見ていきます。

その上で、給与前払いサービスを導入する企業が何を基準にサービスを選定すればいいのか、明らかにしていきたいと思います。

給与前払いサービスの仕組み

そもそも、給与前払いサービスには、大きく「立替型」「預託金型」の2種類があります。

立替型とは、給与前払い分の金銭をサービス提供業者が立て替えて支払うタイプです。

預託金型とは、給与前払い分の金銭を、サービス導入企業がサービス提供業者にあらかじめ預けておいて、そこからサービス提供業者が支払うタイプです。

このうち、以前から適法性が問題視されていたのは立替型になります。グレーゾーン解消制度で照会を行ったペイミーも、まさに立替型に当たるサービスを提供しています。

立替型が問題視された理由は、見た目上、サービス提供業者が企業に代わって給与前払い分の金銭を支払う形をとっている点にあります。この支払われた前払い分に関して、サービス導入企業または従業員が負担する手数料が金利と見えなくもないです。

だとすれば、サービス導入企業または従業員がサービス提供業者から金銭の貸し付けを受けているのと実質的には同じだといえそうです。

そうなると、立替型の給与前払いサービスは貸金業に該当する可能性があります。

そして、貸金業法上、貸金業を営むには貸金業の登録が必要であり、給与前払いサービス提供業者が貸金業の登録がないまま営業しているとなると、貸金業法に違反していることになります。

さらに、サービス導入企業または従業員が負担する手数料が金利となると、利息制限法によって、利率は制限されることになります。

そして、給与前払いサービスでは毎月給与を前払いしており、年利で換算すれば利率はかなり高くなります。

そのため、仮に貸金業の登録がなされていたとしても、今度は利息制限法に違反する恐れもでてきます。

どうでしょう。(立替型の)給与前払いサービスには、何やら法的なリスクが色々ありそうですね。

そこで今度は、このような給与前払いサービスの法的な仕組みと照らし合わせる形で、金融庁がなぜ「貸金業には該当しない」と回答したのか、その中身を見ていきます。

立替型の給与前払いサービスのPaymeはなぜ適法なのか

金融庁がPaymeが貸金業には該当しないと判断した理由の一つとして、Payme導入企業の従業員に支払われる(給与前払い分の)金銭が、「給与」(労働の対償として使用者が労働者に支払うもの)の性質があるかどうか、という論点があります。

もし、Payme導入企業の従業員に支払われる(給与前払い分の)金銭がの原資を、導入企業ではなくペイミー社が負担しているのであれば、それは給与の性質がない金銭ということになります(労働の対償として使用者が労働者に支払うものではないので)。

そうなると、ペイミー社は「給与の前払い」の名目で従業員に貸し付けを行い、その対価として手数料を取っていることになり、貸金業に該当する可能性が高くなります。 

いまいち何の話をしているのかわからないかもしれませんが、この論点は、アメリカで普及している「ペイデイローン」が抱えていた問題によく似ています。 

ペイデイローンとは、利用者が次の給料日に支払いを受ける給与を担保に業者から貸付けを受ける、短期小口の消費者金融です。

一見すると給与の前払いが行われているようですが、支払われる金銭の原資は、利用者が勤務する企業ではなく、業者が負担しています。

つまりそれは給与とはいえず、貸金業に該当する可能性が高いサービスといえます。 

ペイデイローンのように従業員に支払われる(給与前払い分の)金銭の原資をサービス提供業者が負担する仕組みでは、日本でも貸金業に該当する事業を行っていると判断されるでしょう。

そして、貸金業の登録なくそのようなサービスを提供すると、違法の可能性が高いといえます。 

話をPaymeに戻すと、このサービスの場合、従業員からの申請に基づいてペイミー社が給与を前払いした後、従業員に対して前払いされた給与の合計額や銀行振込手数料、手数料を、導入企業はペイミー社に支払っています。

つまり、前払い給与の原資は導入企業が負担しているといえます。この点は、ペイデイローンとは大きく異なります。 

立替型である以上、導入企業が原資を負担するのは当然ではありますが、実際のお金の出所いかんで給与といえるかどうか変わってくる点が、重要なポイントです。

では、給与の性質があれば貸金業には該当しないのか、というと、そうではありません。

金融庁の回答では、以下のように(ア)~(ウ)の3つの理由から総合的に判断し、Paymeが貸金業に該当しないと結論づけています。

金融庁の回答の引用

(ア) 本サービスは従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与支払日までの極めて短期間の給与の前払いの立替えである

(イ) 導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えを行っているものではない

(ウ) 手数料についても導入企業の信用力によらず一定に決められているとの前提の下では、導入企業又は従業員に対する信用供与とは言えず、また、導入企業においても、信用供与を期待しているとまでは言えないことから、貸金業法上の「貸付け」行為に該当せず、貸金業に該当しないものと考えられる

まず(ア)は、これまでの記事で解説したように、Payme導入企業の従業員に支払われる(給与前払い分の)金銭に、給与の性質が認められるということす。

次に(イ)は、Paymeの利用契約上、導入企業の資金繰りなどの状況に応じてペイミー社側の判断でサービスを停止できるとされています。これは裏を返せば、導入企業は仮にPaymeを利用しなくても従業員からの申し出で給与前払いを行えるということです。

つまり、導入企業の支払い能力を補完するために、ペイミー社が資金の立て替えを行っているわけではないため、貸金業には該当しないということになります。 

最後の(ウ)は、Paymeの手数料は、「前払い額の一定割合」または「申請件数×固定金額(数百円)」のいずれかを選択でき、手数料が導入企業の信用力によらず一定になっています。

割合や金額が一定であるため、ペイミー社は自らの判断や意思決定でお金を出すかどうか判断しているわけではありません。だから貸金業ではないということです。 

以上3点を総合的に考慮し、金融庁はPaymeが貸金業に該当しないと判断しました。

Paymeと同様の設計を取り入れたサービスは他にもありますが、そのようなサービスなら適法性が認められる可能性が高いです。

裏を返せば、導入企業の資金繰り状況に関係なく支払い能力を補完したり、手数料が導入企業の信用力に応じて変動したりする給与前払いサービスは、金融庁から貸金業に該当すると判断される可能性があります。

というわけで、「立替型」の給与前払いサービスがどのような場合に適法になるかを見てきましたが、次は、「預託型」の給与前払いサービスについて検討したいと思います。

預託型の給与前払いサービスはどうすれば適法になるのか

導入企業から給与前払い分の金銭をあらかじめ預託金の形で預かるような運用は、実は無資格では行えません。

誰かから金銭を預かったり、それを第三者に送金したりすることは、「銀行業」に該当します。

そして、銀行業を営むためには、金融庁の免許が必要になります(要件はものすごく厳しいです)。 

そのため、免許がないサービス提供業者が預託金型で給与前払いサービスを提供すると、銀行法に違反する可能性が高いです。

そこで、サービス提供業者は、銀行と提携して銀行に金銭を預かってもらったり、振込について委託したりしていることが多いです。

また、金融機関以外でも、100万円以下の資金を動かせる「資金移動業」として登録することで、銀行法違反にならないように配慮しているところもあります。

というわけで、預託側の給与前払いサービスが適法かどうかを見極めるためのポイントは、そのサービスが金融機関と提携しているか、あるいは、サービス提供業者が資金移動業の登録をしているか、どちらかになっているか、ということです。

そこで、立替型の給与前払いサービスが適法かどうかを見極めるための2つのポイントについて解説をします。

まず1つ目のポイントは、サービスの仕組みが公開・解説されていることです。

サービス提供業者のWebサイトなどで、適法性について理論的に根拠を示せない業者は避けた方が良いでしょう。

特に重要なのは、前払いされる給与の原資を導入企業が負担しているか、つまり賃金性が認められるかどうかです。

2つ目のポイントは、導入企業や従業員が負担する手数料です。

貸金業法や利息制限法の規制を回避して暴利を得る目的で、法律上の解釈があいまいな給与前払いサービスを始めたのではないかと疑わしい業者も存在するようです。

手数料が相場に比べて著しく高い場合、適法性を疑ってみた方がよいでしょう。

求人応募者数の増加や定着率の向上のため、今後も給与前払いサービスを導入する企業は増えるでしょう。

ただ、適法性に疑いのあるサービス提供業者と契約すれば、企業の法的・道義的責任が問われます。

企業の信頼が低下して、逆に人材不足を招くような事態になったら本末転倒です。

今回の記事で解説したポイントをきちんと確認し、判断に悩むなら一度弁護士に相談すべきです。

 

 

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