IT企業に特化した弁護士藤井が運営するサイト

弁護士 藤井総の
メールマガジンに登録する

「生き残るのは1チームだけ」「豚もトレンドに乗れば空を飛べる」 Tencentの社内文化は超強烈!

WeChat(中国版のLINE)を提供しているTencentの深セン本社(「互」を模した巨大ビルです。中国語でインターネットは「互」なので「インターネットのジャイアントだ」と言いたいのでしょう)に行ってきました。

誤解している人も多いですが、TencentはLINEとは規模も事業ドメインも全然違っていて、中国版のGoogleともいえる超巨大ITコングロマリットです。

Tencentの中の人からは、主にTencentの社内制度と、「ニューリテール」への取り組みについて伺いました。

が、、、あまりにも具体的な数字や生々しい話が多かったので、公開しても差し支えない範囲だけ皆さんにシェアしますね。

・Tencentには7つの事業セグメントがある

・「WXG」(Wechat関連)が、Tencentの時価総額の半分の価値がある。しかし従事している従業員はグループ全体の人員の中でわずか*人

・「IEG」(ゲーム関連)が、売上の半分弱を占めている。世界最大のゲーム会社。去年の4半期(3ヶ月)の売上が*億元。ゲームの「スキン」(アバターの外観)の売上だけで*億元

・徹底的な社内競争文化。社内で127のチームがそれぞれ競合するサービスを開発して、しのぎを削っている。各チームは別の会社みたいなもの。一番にならないと生き残れない

・内部競争で消耗し合わないかって? Tencentとしては、1つのチームが成功しさえすればそれでいい

・Wechatも3つのチームがメッセンジャーアプリで戦った結果、生き残ったもの。勝者はユーザーが決める。ユーザーを獲得できたチームが勝つ

・これからのスマート家電にとって、音声認識スピーカーが重要な入口になる。Tencentはゲームや音楽、いろんなサービスがある。他社のプラットフォーム上でアプリを売ると手数料が取られる。音声認識スピーカーから直接サービスを売ることができれば、手数料も取られない。プラットフォームに縛られない

・現在、社内で*つのチームが音声認識スピーカーを開発して、競争している。

・チームの業績が良ければ、チームリーダーが純利益の*%をメンバーにボーナスとして配分する。わずか420人のチームが*億元のボーナスを配分したケースもあるし、とあるメンバーが*ヶ月分の基本給のボーナスをもらったケースもある

(注:*は半端ない数字でした)

・このチーム競争文化がTencentの特徴。Alibabaは全体で戦い、Tencentはチーム毎に戦う

・とある81人のチーム、あるブログに有償で広告出したいとなったら、エンジニアが「ブログ運営者とつながっているから、無料で広告出してもらえるよ」と言い、広告費が節約できた。なぜエンジニアがそんなことを?チームに利益が出せば、メンバーは享受できるから

・「豚もトレンドに乗れば空を飛べる」という言葉がある。時代の変化に適用してトレンドをキャッチできれば勝てる。小さいチームであればあるほど素早く柔軟に対応できる。これがチーム制のメリット

・Wechatにはライバルがいる。動画共有サービス「Tik Tok」。最大のライバル。消費者の1日の可処分時間は限られる。ライバルはTencentの顧客の可処分時間=売上を奪ったことになる。to Cのビジネスではそれの奪い合い。「人気を現金に変える」。Tik Tokに対抗するために様々な対策を実施。複数のライバル会社に投資したりとか

・エコシステム、プラットフォームが大事。勝者が総取り。なぜニューリテールなどのいろいろな分に投資する?「人気」が欲しい。その人気がWechatやQQの利用につながるから

・とはいえ、全てのチームが常に競争に晒されているわけではない。Tencentには「余剰の価値」という考えがある。一見すると価値がないような人たちでも、会社が養っている。短期的な結果が求められない、基礎研究やチャレンジングな取り組みをしている人たち

・Tencentは2011年、競合との激しい戦いから株価が史上最低になった。しかしその年の9月にWechatが生まれて一気に巻き返した。それを開発したのが、貢献度の低かった杭州のチームだった

・現在大ヒットしているQQのゲーム「王者の栄光」は成都の小さな開発チームが行った。このチームは、プロダクトがないときは受託開発とかやってた。外注先みたいな扱い。そんなチームが、莫大な売上をもたらすゲームを開発した。彼らはそれまで*年連続でボーナスがなかったが、この大ヒットで*元のボーナスが支給された

・Tencentでは、こういった貢献度の低いチームもクビにしない。もちろん、彼らには(当面は)目標設定&達成というものがないから、ボーナスは出さない。基本給を出して養うだけ。だが、そんな彼らがいつか大ヒットの商品を開発する。重要でないように見えてもちゃんと育てていけばいつか資産になる

・多くの中国企業の人間関係は複雑。しかしTencent社内の人間関係と評価制度は単純明快。全てはKPIで評価が決まる。

・基本給、ボーナス、長期的インセンティブ、この3つが与えられる

・基本給は売上に関係なくコストで決まる。開発系、市場系、人事系、のように業務ごとにカテゴリーが決まり、その中でランクアップしていく。自分のこれまでの実績を、直属の上司(リーダー)ではなく、審査委員(面識もない)が、数字、結果だけを元に評価してランクを決定し、基本給が上がる。上司が評価に関与しないので、顔色をうかがう必要もない。昇進の人数の制限もない。

・ボーナスは年に2回審査がある。年初にチームの目標がリーダーから示され、そこを元に自分で目標を設定し、リーダーの承認を得て、決定。4月になったら審査。自己採点だが、リーダーが承認する。点数に応じて1〜5つ星。「余剰の価値」みたいな人たちは、目標がないからボーナスもない

・採用面接は9回もやる。面接は実際に一緒に働く上司がする。ただ、給与はHRが決める。リーダーはメンバーの給与すら知らない

・4.3万人の従業員がいる。それだけ多いから「効率的な人材管理」が必要。Wechatの公式アカントで人材管理してる。

・例えば、夜9時半以降の帰宅ならタクシーを経費にできるが、別に特殊なシステムは使ってない。普段使いのWechatアカウントで配車を依頼すると、夜9時半以降なら経費申請ボタンが表示され、それを押せば経費化される。領収書をもらったり経費申請をする必要もない

・北京には6000人の従業員がいるが、事務は8人しかいない。上記システムにより、ほとんどのバックオフィスの業務が自動化されている

・バックオフィスも「目標」がないからボーナスはないが、基本給はもらえるし、それは相場からすると高いし、Tencentの充実した福利厚生を受けられるし、何よりも定時で早く退社できるし、ハッピー

・Tencentは投資に積極的。去年は40社に投資した。ゲームとか、スーパーとか、配車サービス・シェアバイクサービスといった生活サービスとか、広範に押さえている

・Tencentが出資や買収する際の考え→いかに出資先・買収先の企業の顧客・ユーザーにTencentの各種サービスを利用してもらえるか。エコシステムに組み込めるか。例えば、mobikeのユーザーにWechatPayを使ってもらうとか

・2017年は「ニューリテール」という概念が生まれた。今後はTencentとAlibabaとの戦いになるだろう

・ニューリテールとは、オンラインとオフラインの融合であり、インターネットと小売の融合である。オンラインのお客さんがオフラインの店舗に誘導され、オフラインのお客になる。逆に、オフラインのお客がオンラインのお客になる

・例えば、Alibabaが出資するスーパーのフーマー(オンラインで注文してから30分で配達)。当然、オフラインで来店するお客もいるが、オフラインで購入した人の35%がオンラインでも再度購入するというデータがある

・これからの小売は、誰がいつ何を買ったか全て記録に残して、それを役立てないといけない。それができるのは、TencentとAlibaba。だからこの二社がニューリテールの領域でぶつかるだろう

・Tencentはこれまで「人と人をつなぐ会社」だったが、ニューリテールの時代を迎え、これからは「人と取引をつなぐ会社」を目指していく

・確かにEC単体では、Alibabaに勝つのは難しいだろう。しかしTencentはモバイルでの検索に優位性が有る。例えば、「スターバックス」で検索すると、近場の店舗がいくつか表示され、各店舗のクーポンが表示され、そのまま画面でクーポンを利用して注文してWechatpayで決済して、店舗で商品を受け取るとか。そういったエコシステムに組み込むことができる

・ニューリテールの他の事例。例えば店舗には商品見本を1個しか置かず、在庫も置かず、レジも置かず、店舗をショールーム的に使う。お客さんは商品の下に表示されたQRコードをスキャンして決済。あとはTencentが運営するピックアップストア(各店舗は在庫をそこに置いておく)に行ってその商品を受け取るなり、配送サービスを使って自宅に配送してもらう

他にも色々と面白い話を聞けましたが(特に金融系のビジネスに関する話とか)、とにかく圧倒されっぱなしでした。

Tencentの強烈な社内競争文化は、中国国内の競争文化(各都市が経済発展でしのぎを削ったり、過酷な受験戦争や出世競争があったり)を濃縮したような感じですね。

とはいえ、別の記事でも紹介した、カリスマ「ジャック・マー」を中心に全従業員が一丸となって企業理念を体現しているAlibabaのような会社もあるわけで(Tencent社内の評価基準は純粋にKPIだけで、対照的に、Alibaba社内の評価基準にはAlibabaの価値観=「六脈の神剣」をいかに体現したかが含まれている)、一口に中国企業といっても、様々なタイプがあるのですね。

ただ、いずれにせよ中国の巨大IT企業の取り組みは、日本の企業にとって大いに参考になる話だと思います。

弁護士 藤井総のメールマガジンに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

人気記事ランキング