テレワーク導入の8つのポイント

新型コロナウィルス対策としてテレワークを導入する企業が増えています。

特に、人口過密な上に、多少の体調不良は押してでも仕事を優先して満員電車で通勤する人が多い都心部に所在する企業は、新型コロナウィルスの感染拡大に備えて、在宅勤務や、そこからさらに一歩進んでテレワークの導入を真剣に検討しなければならない状況になっています。既に大手企業の多くは、在宅勤務にシフトしつつあります。

そもそも、新型コロナウィルス対策だけでなく、東京オリンピック(予定通り実施されるか不確定ですが)、いつ起こるかわからない自然災害対策、保育園や介護施設の不足にる子育て・介護離職、労働人口が減少する中での採用力や生産性の向上、地方の人材の活用など、様々な理由から、テレワークの必要性が高まっています。

テレワークの導入は決して難しい話ではなく、ポイントさえ押さえれば、そんなに時間をかけずにスタートできます。ただ、法的・実務的なポイントを知っておかないと、法的な問題が起きてしまったり、うまく導入できなかったりします。

そこでこの記事では、テレワークを導入する際に検討が必要な法的・実務的ポイントを解説したいと思います。

とはいえ、両者は密接に関連しているので、法的ポイント/実務的ポイントという分け方ではなく、みなさんが理解しやすい8つのポイントという形で解説していきます。

ちなみに、私はITサービスを提供する企業の支援を専門とする弁護士でして、しかも毎年100日以上海外を旅しながらテレワークで仕事をしているので、テレワークの導入に関しては法的側面だけでなく実務的側面についても知見があります。

ポイント1.従業員の同意をなるべく得る

そもそも、会社は従業員に対して、テレワークを命じることができるのでしょうか。

テレワークと通常勤務の一番の違いは何かというと、それはもちろん、「働く場所」です。会社は、従業員と「労働契約」を結ぶことで、労働を提供してもらう代わりに給与を支払うのですが、労働契約というのは、「どういう条件で従業員に労働をしてもらうのか」という労働条件を定めるものになります。

そして、「働く場所」(=就業場所)というのは労働条件の一つです。それも、労働条件の中でも特に重要な事項になります。

労働基準法は、会社が従業員を雇う際に労働条件を「明示」しなくてはならない、と定めています。この明示に関して、たとえば昇給や賞与に関しては、口頭での明示でも構わないとされていますが、就業場所に関しては、書面で明示することが必要とされています。当然、皆さんの会社でも、雇用契約締結時に取り交わされる雇用契約書や、交付される労働条件通知書の中で、就業場所が記載されていると思います。

この、雇用契約書や労働条件通知書に、就業場所として会社のオフィスの他に、「従業員の自宅、その他自宅に準じる場所として会社が指定した場所」といった記載があれば、テレワークを命じることに、特に問題はありません。ただ、あくまでも会社のオフィスしか記載されていない場合のほうが、圧倒的に多いでしょう。その場合に、これからテレワークを始めるということは、就業場所を変更することになります。

この点について従業員が同意するなら、やはり問題はありません(通勤が不要になるので歓迎する従業員も多いでしょう。)。ただ、労働条件の変更である以上は、テレワークの開始時期や条件などは書面で確認しておくべきです。

また、もし同意しない従業員がいたとしても、業務上合理的な理由があるならば(まさに今回の新型コロナウィルスの感染拡大対策など)、会社が就業場所の変更を命じることは可能とされています。もっとも、「そんな話は聞いていない」みたいなトラブルにならないよう、就業規則の中で、業務上必要な場合に就業場所の変更を命じることができること、そして変更場所として、「従業員の自宅、その他自宅に準じる場所として会社が指定した場所」が挙げておくことが望ましいです。もちろん、従業員にテレワークの必要性を納得してもらい、同意してもらうのが、スムーズな導入を進める上で一番ではあります。

新型コロナウィルスの感染拡大対策のために、すぐにでもテレワークを始めたい会社は、なるべく従業員の同意を得てこれを進めつつ、就業規則の中の就業場所の変更に関する規定を、これを機会にアップデートしたほうがよいでしょう。

ポイント2.労働時間を把握する

そもそも、会社には従業員の労働時間を把握する義務があります。これは、所定の労働時間(通常は1日8時間の週5日)を超える仕事が行われた場合に、会社は残業代を支払わないといけないので、その前提として、従業員の労働時間を把握しておかないといけないからです。

これが、通常勤務であれば、タイムカードやパソコンの起動時間、何よりオフィスにいるのですから、労働時間の把握は簡単にできます。

ですが、テレワークの従業員の場合、何時から何時まで働いているのか、その間に仕事以外のことがされていないのか、といったことが分かりにくく、労働時間を把握することが難しい、と考えられてきました。そのため、テレワークを採用する会社の中には、対象となる従業員に「事業場外みなし労働時間制」や「裁量労働制」の制度を採用しているところもあります。

「事業場外みなし労働時間制」とは、会社の外(事業場外)で労働する従業員に関して、実際の労働時間に関係なく、所定の労働時間労働したものとみなす制度です。以下の2つの要件を両方満たした場合に採用することができます。

① 上司からの連絡に即応する義務がないこと

② 上司からの指示は業務の目的や期限等の基本的事項に留まること

ですが正直なところ、最近のテレワークのスタイルでは、この2つの要件(特に①の要件)を満たすことは難しいでしょう。

最近のテレワークは、ビジネスチャットとテレビ会議システムを導入することで、いつでもチャットでコミュニケーションを取って(チャットで即レスが求められる)、必要に応じてすぐにテレビ会議が行われる(「●時からミーティングをしよう」とチャットで呼びかけられる)というスタイルが増えています。これでは、「① 上司からの連絡に即応する義務がないこと」とはいえません。

それに、働く場所に関係なく誰もが同じように働けるのがテレワークのメリットです。それなのに、テレワークの従業員に事業場外みなし労働時間制を適用したがために、オフィス勤務の社員にように日々の具体的な指示ができなくなってしまっては、使い勝手が悪いです。

だから、テレワークの従業員に事業場外みなし労働時間制を採用することは難しいでしょう。

「裁量労働制」とは、業務の遂行方法が大幅に従業員の裁量に委ねられる一定の業務をする従業員に関して、実際の労働時間に関係なく、所定の労働時間労働したものとみなす制度です。①専門業務型(専門職)と②企画業務型(企画職)の2種類があります。

ですが正直なところ、中小企業で専門職、企画職といえる職種・業務の従業員は少なく、大部分の従業員は要件を満たさないでしょう。例えば、①専門業務型の中にプログラマは含まれませんし、システムエンジニアであっても、対象となる業務はシステムの分析又は設計業務に限られます。

事業場外みなし労働時間制、裁量労働制、いずれの制度も採用が難しい以上、テレワークの対象となる従業員に関しても、労働時間を把握する必要があります。

まず、始業、終業時間の把握は、クラウド型の勤怠管理システムを使えばいいでしょう。最近は使い勝手が良くて安価なものが沢山あります。それこそ、チャトやメールで始業・終業報告をするやり方でも構いません。

では、テレワークでの勤務時間中にきちんと業務をしているかについて、どう把握すればよいでしょうか。

最近は、一定時間ごとにPCの画面のキャプチャーを取ったり、PCに内蔵されたカメラで顔を撮影するなどして、業務しているかどうかを把握するシステムもあります。ですが、私はおすすめしません。信頼されていない感が出ますし、監視の息苦しさから、従業員のモチベーションは確実に下がるでしょう。

そもそも、オフィスで勤務している従業員に対して、そこまで厳格にチェックしているのですか。多少の中抜けや雑談、ネットサーフィンがあっても、ある程度は許容しているのではないですか。とりあえずパソコンの前に座っている、会議に出席している、というだけで、アウトプット(成果)に乏しい従業員も少なくないと思います。

テレワークでは、そのような「見せかけの業務」は通用しないので、勤務時間の中で出されたアウトプットを元に、きちんと業務をしているか把握することになります。そしてこのアウトプットでの判断は、無駄な長時間労働を減らすという働き方改革の点からも、テレワークかどうかに関係なく行うべきでしょう。

アウトプットの把握は、タスク管理システムを使うことをおすすめします。社内のメンバーに振ったタスクや自分が作ったタスクが可視化され、社内で共有できますし、進捗状況も適宜アップデートできます

ちなみに、テレワークでいつでもチャットでコミュニケーションを取っている状況でサボっていると、レスが悪くなるのですぐに周りに気づかれます。そのため、テレワークを導入すると、サボっていると思われないよう、積極的に(チャットで)発言したり、アウトプットを出そうとする従業員も多いです。

ところで、テレワークの場合、仕事と生活の線引がしにくく、ついつい長時間労働や深夜労働、休日労働などが行われがちです。しかし、これらは従業員の健康管理上よろしくありませんし、会社にも残業代、深夜・休日労働手当などのコストが生じてしまいます。そこで、残業・深夜労働・休日労働は原則禁止にして、やむを得ずに行う場合は事前に申告して上司の許可が必要、というように就業規則と運用を変えるやり方が一般的に推奨されています。

とはいえ、適正な業務量の調整をしないまま残業等を原則禁止にすると、かえってサービス残業、忖度による残業の非申告が増えてしまうおそれがあります。会社としては、従業員から残業の申告がないからといって安心せず、終業時間後にチャットやメールを送信したり、システムへアクセスしていないか等を定期的にチェックする必要があります。

このように、テレワークの導入に際しては、これまで以上に会社として従業員の労働時間の把握を(本当にその時間労働してもらう必要があるのかの判断も含めて)きちんと行う必要があります。

ポイント3.人事評価のやり方を見直す

人事評価のやり方は、テレワークの導入にあたって見直したほうがよいでしょう。

多くの企業は、人事評価の項目に勤務態度を挙げていますが、これが労働時間の長さと同義なケースが多いです(労働時間が長い=真面目な勤務態度ということです。)。そして、この勤務態度が人事評価の中で大きな割合を占めていることが多いです。

ですが、テレワークでは勤務時間の中で出されたアウトプットを元に人事評価が行われることになります。そうなると、勤務態度(労働時間の長さ)で評価される通常の従業員と、アウトプットで評価されるテレワークの従業員とで、不公平感が出てしまいます。ここはアウトプットでの評価を中心とすべきでしょう。

ポイント4.賃金制度を定める

テレワークの従業員について、通常の従業員とは違う賃金制度を定めるなら、就業規則の変更が必要になります。

例えば、就業規則で固定残業制度を導入している会社では、テレワークの導入によって対象となる従業員の残業時間が減ると、固定残業代分が割高になってしまいます。そのため、テレワークの従業員については固定残業代を減額するなど、賃金制度の変更を検討する必要があります。

また、通勤費について、完全テレワークの(出勤をしない)従業員については、通勤費の支給対象外になるでしょう。また、週のうち数日は出勤し、残りをテレワークにする場合、定期代との関係で通勤費をどう支給するか、検討する必要があります。

他には、テレワークの従業員に「テレワーク手当」のような手当を支給することも考えられます。ただ、その趣旨や支給の要件によっては、割増賃金の基礎となる単価に含まれる場合があります。そのため、基礎単価の除外賃金となるのかの検討が必要になりますし、賞与・退職金との関連性も明確化してお く必要があります。

賃金制度をどう定めるかについては、社労士に相談をするのが良いでしょう。

ポイント5.導入費用はなるべく会社が負担する

テレワークで使用する端末代や通信費、セキュリティ対策費など、テレワークの導入には一定の費用がかかります。これを会社が負担するのか、それとも従業員が負担するのかも、問題になります。

これを会社が負担する法的義務はありません。従業員に負担してもらうことは可能です。

ただし、従業員に負担してもらう場合は、就業規則に定める必要があります。現状の就業規則にそのような定めがないなら、就業規則の変更が必要になります。

ですが、従業員の生産性を高めるためには、一定レベルの端末やネットワークを使用してもらうべきですし、情報漏えいを防ぐためにも、セキュリティ対策費は惜しむことはできません。それらの費用を従業員に負担させるというのも、酷な話です。労働人口が減少して優秀な人材の採用が難しくなる中で、採用力を高めるためにも、テレワークの導入費用は会社が負担するべきでしょう。

ポイント6.セキュリティ・作業環境を整える

会社がセキュリティ対策済みの業務用のノートブックやスマホを貸与するのであれば、基本的には問題はありません。

ただし、

  • Free Wi-Fiは利用しない(会社貸与のスマホでテザリングする)
  • 自宅外で業務をするときは、覗き見防止シールを貼ったり、他の人から見られにくい場所で画面を見る

という点は気をつけてください。

では、従業員の私用端末を業務に利用してもらう(いわゆるBYOD)の場合は、どうすればいいでしょうか。

BYODには、端末のウィルス感染や紛失、盗難等による情報流出のリスクがあります。そこで、会社所定のセキュリティソフトをインストールしてもらったり、セキュリティに関して常日頃から研修を施した方がよいでしょう。

とはいえ、「5.導入費用は会社が負担する」で解説したように、会社の費用負担でノートブックやスマホ、モバイルWi-Fiルーターを貸与する方がよいと思います。

また、テレワークかどうかに関係なく、従業員が機密情報に不正にアクセスしたり、第三者に機密情報を提供したりすることを防ぐ必要があります。その対策として、会社が端末へのモニタリングを行う必要がありますが、これは従業員の個人情報やプライバシーの問題もあるので、自由にできるわけではなく、就業規則に明記しておく必要があります。

そして、もしBYODを認めるのであれば、会社の許可を得て業務利用される私用端末に対してもモニタリングができる旨、就業規則を変更する必要があります。

ただ、私用端末へのモニタリングは、従業員の個人情報やプライバシーの配慮のため、あくまでも業務に関係する通信履歴などの限定された範囲でのみ可能であることに注意してください。

 

ポイント7.チャット・テレビ会議を導入する

テレワークの場合に、どうやって社内、社外の人とコミュニケーションを取ればよいか、という問題があります。テレワークでは対面での打ち合わせができませんし、かといってメールは、コミュニケーションツールとして使い勝手がよくありません。

ですが最近は、チャットが使われることが増えています。そもそも、なぜこれまでメールがコミュニケーションツールの中心だったかというと、「非同期」(お互い都合の良いタイミングでコミュニケーションができる)で、「テキストベース」(テキストが残るので言った言わないのトラブルにならない)というメリットがあるからです。これがチャットなら、同期ではないものの、会話調でテンポよくやり取りできるので、同期と非同期のいいとこ取りの半同期のコミュニケーションができて、しかもテキストベースというメリットがあり、とても使い勝手がよいのです。

とはいえ、チャットは万能ではありません。相手を褒めたり叱ったりフォローしたりするなど、相手の顔を見ながら話す必要があるときです。文字だけでは、どうしてもキツイ印象を相手に与えてしまい、こちらの温度感が伝わりにくいです。また、キックオフミーティングや企画立案など、議題が明確・具体的ではなく、各自思い思いに発言して、場の盛り上がりや空気感の共有が必要なときにチャットでやると、話がまとまらなかったり、盛り上がりに欠けたりしてしまいます。

そこで、対面での打ち合わせが必要な場合はテレビ会議を利用すればよいのです。最近は自宅にいても通信速度の速い回線を利用できるので(さらに今後は、超高速の次世代無線通信5Gが普及する見込みです)、ストレスなくテレビ会議を利用できるようになっています。

チャット、テレビ会議の導入に際しては、使い勝手が良くて、利用者の多い(社外の人も使っている)ものを選ぶのが良いでしょう。チャットのおすすめはChatwork(私はChatwork社の顧問弁護士で、長年のユーザーでもあります)、テレビ会議のおすすめはZoomです。どちらのサービスも無料版があるので、まずは試しに使ってみて、導入に問題がなさそうであれば、高機能な有料版を利用すればよいでしょう。

ちなみに、チャットはまだまだ使い慣れている人が多くなく、誤ったチャットの使い方をしている人も多いです。私はマイナビニュースに「ビジネスパーソンなら知らないとマズい 仕事のチャットマナー」という連載記事を執筆していたので、こちらも参照してチャットの使い方に慣れてください。

 

※参考:ビジネスパーソンなら知らないとマズい 仕事のチャットマナー

 

ポイント8.マインドを変える

これまでテレワークがそこまで普及していなかった理由として、「テレワークはずるい」「サボっても気づかれない」という根強い考え(偏見)がありました。

ですが、状況は変わりました。新型コロナウィルス対策だけでなく、東京オリンピック、いつ起こるかわからない自然災害、子育てや介護、労働人口が減少する中での生産性の向上、地方の人材の活用など、様々な理由から、テレワークの導入は真剣に検討しなければならない状況になっています。

そのためには、トップダウンやマネージャー層のフォローによって、「テレワークはずるい」と社内で思わせないような雰囲気作りが必要になります。

また、「サボっても気づかれない」と思われないよう、業務内容や業務命令の明確化、合理化、納得できる評価制度の構築なども必要になります。これは決して、テレワークを導入する企業だけではなく、全ての企業にとって必要な話です。

以上の8つの法的・実務的ポイントに気をつけて、ぜひ皆さんの会社でもテレワークを導入してください。

私が代表を務める弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、テレワークの導入に関する支援も行っています。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

(当事務所ウェブサイト)http://itbengoshi.com

 

※この記事の原案はサハラ砂漠でテレワークをしながら執筆しました