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あなたが開発したヘルスケアアプリ、違法ですよ

みなさん、AppleWatchは買いましたか?

 私は買ってません。iPod、iPhone、iPad、MacBookと、Appleが出す製品は毎回買ってきましたが、さすがに時計にはピンときませんでした。通知をすぐ確認できることがウリなそうですが、私は四六時中MacBookの画面に向かっているか、iPhoneを触っているので、わざわざ時計に通知してもらわなくても、と思ってしまうのですね。

 とはいっても、AppleWatchのウリは通知だけではありません。「ヘルスケア」の機能により、歩数、移動距離、ワークアウトの記録、心拍数などを記録し、表示してくれたりするそうです。

 このように、最近のウェアラブルデバイスにはユーザーの健康に役立つアプリケーションが搭載されていることが多いです。皆さんの中にも、こういったモバイルヘルスケアの企画や開発に携わっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 日経新聞の報道によれば、モバイルヘルスケア市場は2013年から急成長し、2017年には全世界で230億ドル規模に拡大すると予想されているそうです。このように盛り上がっているモバイルヘルスケアですが、IT企業の皆さんが「バスに乗り遅れるな!」と勢いで乗っかってしまって、はたして大丈夫なのでしょうか。

 実は、モバイルヘルスケアの領域は、IT企業の皆さんには馴染みのない「ある法律」で厳しく規制されているのです。しかも、最近の法改正によって規制が始まった話なので、まだほとんど知られていないのですね。

 そこで今回は、モバイルヘルスケアを厳しく規制する法律について解説をします!

「薬事法」はもうない

 皆さんは「薬事法」という名前の法律を聞いたことがありますか?「あぁ、健康食品やスキンケア用品を販売するときに、薬的な効果効能をうたってはいけないとかいうやつだよね。」と思われたかもしれません。そういった規制もしている法律なのですが、規制対象には、健康食品やスキンケア用品などの身体に摂取・塗擦するものだけでなく、医療機器も含まれます。

 この規制対象の「医療機器」ですが、これまではあくまでも、ハードウェアのことを指していました。「機器」というからには、ハードウェアをイメージするのは当然ですよね。

 この点、ハードウェアには、ボタンを押すと決められた動作(発熱する・冷却するなど)だけをするものもあれば、プログラムで制御された動作をするものもあります。ですが、このプログラム、これまでの薬事法では、それ単体では規制対象ではありませんでした。

 つまり、これまでの薬事法にいう「医療機器」は、あくまでもハードウェアのことなので、そのハードウェアとプログラムがセットで(というよりプログラムが組み込まれたハードウェアが)規制対象になる、ということです。

 そのため、例えばヘルスケア用のスマホアプリを開発・販売したとしても、ハードウェア(スマホ)に組み込んだ形で開発・販売しているわけではないので、これまでの薬事法では「医療機器」に該当せず、規制対象にはならなかったのですね。

ところが、この薬事法が改正され、モバイルヘルスケアを取り巻く状況が大きく変わりました。

ヘルスケアアプリも規制の対象?

 従来の薬事法は、医薬品医療機器等法(「薬機法」と略されることが多いです)に改正され、2014年11月25日に施行されました。この改正がIT業界に影響を与えるのが、プログラム単体でも規制対象になった、ということです。

 上で解説したとおり、従来の薬事法で規制対象であった「医療機器」は、ハードウェアのことを指していました。そのため、プログラムは、あくまでもハードウェアに組み込まれたものが、ハードウェアとセットとして規制されただけでした。

 これは、従来は汎用コンピューターや携帯情報端末上で使用される医療用プログラムというものがあまりなく、医療用プログラムは特定のハードウェアに組み込まれて、そのハードウェア上で使用されるものがほとんどだったからです。

 ところが、ITの発達に伴い、スマートフォンやウェアラブルデバイス上で、アプリケーションの形態で使用される医療用プログラムが開発されるようになりました。こういったアプリケーションは、人の疾病の診断、治療、予防に使用されたり、人の身体の構造、機能に影響を及ぼすことがあります。そして、機能に障害が発生すれば、人の生命や身体に悪影響を与える可能性もあります。

 それなのに、ハードウェアとセットで製造・販売されないからといって、何も規制されないのはおかしいではないか、ということもあり、薬機法の改正に至るということです。

 ここまでの話を聞いて、ヘルスケアアプリを開発している最中のIT企業の皆さんが、「それは知らなかった!このままではヘルスケアアプリの開発を中止しないといけないのか!?」と頭を抱えているかもしれません。

 ですが、ヘルスケアアプリが、何でもかんでも薬機法の規制対象になるというわけではありません。というわけで、薬機法の規制対象になるプログラムが具体的にどういったものかについて、解説していきます。

あなたが開発したプログラムは「医療機器」ですか? 

 まずはじめに理解して欲しいのが、あくまでも薬機法で「医療機器」に該当するプログラムが、規制対象になるということです。別に、ヘルスケアに関係するプログラムであれば、なんでもかんでも薬機法の規制対象になるわけではありません。

 そして、医療機器に該当するかどうかの判断にあたって、「次の2点について考慮すべきものである」と、厚生労働省の通達(薬食監麻発1114 第5号 平成26年11月14日)に記載されています。

  1. プログラム医療機器により得られた結果の重要性に鑑みて疾病の治療、診断等にどの程度寄与するのか。
  2. プログラム医療機器の機能の障害等が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれ(不具合があった場合のリスク)を含めた総合的なリスクの蓋然性がどの程度あるか。

 何やらわかりにくいことを言っていますが、ようは、

  1. 治療や診断にどれだけ役立つか
  2. 障害が生じると命や健康にどれだけの悪影響を及ぼすか

という点を総合して判断しましょう、ということです。

 ただ、これだけだと正直良くわかりませんよね。そこで、厚生労働省の通達でも、以下のような具体例が挙げられています。

【医療機器に該当するプログラム】

・医療機器で得られたデータ(画像を含む)を加工・処理し、診断又は治療に用いるための指標、画像、グラフ等を作成するプログラム

ex.画像診断機器で撮影した画像や検査機器で得られた検査データを加工・処理し、病巣の存在する候補位置の表示や、病変又は異常値の検出の支援を行うプログラム

・治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム(シミュレーションを含む

ex.画像診断機器や検査機器で得られたデータを加工・処理し、手術結果のシミュレー ションを行い、術者による術式・アプローチの選択の支援や、手術時に手術機器で使用するパラメータの計算を行うプログラム

【医療機器に該当しないプログラム】

・健康管理用プログラム

ex.日常的な健康管理のため、個人の健康状態を示す計測値(体重、血圧、心拍数、血 糖値等)を表示、転送、保管するプログラム

ex.電子血圧計等の医療機器から得られたデータを転送し、個人の記録管理用として表示、保管、グラフ化するプログラム

ex.個人の服薬履歴管理や母子の健康履歴管理のために、既存のお薬手帳や母子手帳の情報の一部又は全部を表示、記録するプログラム

ex.携帯情報端末内蔵のセンサ等を利用して個人の健康情報(体動等)を検知し、生活環境の改善を目的として家電機器などを制御するプログラム

ex.携帯情報端末内蔵のセンサ等を利用して個人の健康情報(歩数等)を検知し、健康増進や体力向上を目的として生活改善メニューの提示や実施状況に応じたアドバイスを行うプログラム

 どうでしょう。これらの具体例を見ると、わりと「ガチ」なものでないと、医療機器には該当しないことが分かるかと思います。というわけで、「軽め」のヘルスケアアプリであれば薬機法の規制は受けず、普通に開発・リリースすることができます。

 では、医療機器に該当しそうなヘルスケアアプリの場合、一体どのような手続きをすれば、開発・リリースができるのでしょうか。

ヘルスケアアプリを開発・リリースするための手続き

 まず、医療機器(ヘルスケアアプリ)を自社で(又は外部に委託して)製造し、市場で販売するためには、

① 医療機器製造販売業許可

が必要になります。

 ただ、外部から委託を受けて製造し、委託元に納品する(受託開発をする)場合は、

② 医療機器製造業登録

が必要になります。

 つまり、自社サービスとしてヘルスケアアプリを市場に出すなら、①医療機器製造販売業許可を、ヘルスケアアプリを受託開発するなら、②医療機器製造業登録が、それぞれ必要になるということです。自社がどちらの立場になるかで変わってくるので、注意してください。

 そしてこれは、そもそものスタートラインに立つための手続きです。実際に医療機器(ヘルスケアアプリ)を市場で販売するにあたっては、それ(医療機器)そのものについて、

  1. 承認
  2. 認証
  3. 届出

のいずれかの手続きが必要になります。

 どの手続が必要になるかは、医療機器の分類によって変わってきます。

・高度管理医療機器

は、リスクの程度が高いので、①承認が必要になります。

・管理医療機器

は、リスクの程度が低いので、②認証で済むのが通常ですが、ものによっては、①承認が必要になります。

・一般医療機器

は、リスクの程度がかなり低いので、③届出で済みます。

 ところで、先ほど、スタートラインに立つために、医療機器製造販売業許可が必要という話をしましたが、実際に製造して販売する医療機器の分類によって、

  1. 高度管理医療機器・・第一種医療器等製造販売業許可
  2. 管理医療機器・・・・第二種医療器等製造販売業許可
  3. 一般医療機器・・・・第三種医療器等製造販売業許可

許可の種類も変わってきます。

 どうでしょう?手続きが面倒くさすぎるし、手続きが通るかも分からないので、不安になってきましたか?

 その気持はわかりますが、あなたが開発したヘルスケアアプリが「医療機器」に該当するなら、それは人の健康に影響をあたえるものなので、やはりきちんとした規制は受ける必要があります。それに、これらの手続きが通れば、効果や機能について、国のお墨付きをもらえるともいえます。そうすれば、アプリの訴求力は大きく高まるでしょう。

 今回の記事の内容を参考に、人々の健康をサポートしてくれる素晴らしいヘルスケアアプリをリリースしてください!

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