最近はIT企業の皆さんから、「代理店契約」に関する相談をよく受けます。メーカーの立場から、パートナーさんと代理店ビジネスを始める際に注意しないといけないポイントの相談を受けることもあれば、代理店の立場から、メーカーさんから渡された代理店契約書のチェックの相談を受けることもあります。

 ここで皆さん、「代理店契約ってどんな契約ですか?」と質問されて、スラスラ答えられるでしょうか。わりと馴染みの深い契約でありながら、実はよくわかっていなくはないでしょうか。そこで今回の記事では、代理店契約がどんな契約なのかを解説したいと思います。

代理店契約ってそもそも何?

 そもそも、メーカー(ベンダー)が商品(サービス)を顧客に販売する場合、二つの方法があります。「直接販売」と、「代理店販売」です。

 まず、直接販売は、メーカーが直接、顧客に商品を販売する方法です。一方、代理店販売は、メーカーが代理店を通じて、顧客に商品を販売する方法です。

 代理店販売は、メーカー、代理店、双方にメリットがあります。まず、メーカーとしては、他社(代理店)の販売チャネル、販売人材を活用できます。一方、代理店としても、商品ラインナップを充実させて、顧客へのアピール力を高めることができますし、売上も上げられます。そのため、代理店販売は、ビジネスの世界で一般的な販売方法です。

 ただ、代理店契約は、実は法的には難しい種類の契約なのです。そして、ポイントを押さえずに代理店契約を結んでしまうと、一気に不利なビジネスになってしまうおそれがあるのです。そこで、代理店契約を結ぶ際に、メーカー側、代理店側、どちらの立場でも重要な5つのポイントを解説していきます。

ディストリビューター方式・エージェント方式の違いを理解する

 1番目のポイントは、『ディストリビューター方式・エージェント方式の違いを理解する』です。

 「ディストリビューター方式」とは、メーカーが代理店に商品を売り、それを代理店が顧客に転売する契約です。「エージェント方式」とは、代理店はあくまでもメーカーと顧客との契約を仲介するだけで、メーカーが顧客に商品を販売する契約です。ちょっとこれだけでは、よくわからないかもしれませんね。両者の違いを、具体的に見ていきましょう。

 まずは契約関係です。ディストリビューター方式の場合、代理店がメーカーから商品を購入し、それを顧客に転売します。つまり代理店と顧客が契約関係にあります。エージェント方式の場合、代理店がメーカーと顧客との契約を仲介するだけです。つまりメーカーと顧客が契約関係にあります。

 次は売上です。ディストリビューター方式の場合、代理店の売上が高くなります。10万円で仕入れた商品を11万円で売るなら、粗利が1万円で、売り上げは11万円になります。エージェント方式の場合、代理店の売上が低くなります。11万円で商品を売って手数料が1万円なら、粗利が1万円で、売り上げも1万円になります。

 そして顧客に対する責任です。ディストリビューター方式の場合、代理店が売主なので、原則として代理店が責任を負います。エージェント方式の場合、メーカーが売り主なので、代理店は責任を負いません。

 最後に顧客からの債権回収リスクです。ディストリビューター方式の場合、代理店が売主なので、代理店がリスクを負います。メーカーは、代理店に売った時点で債権回収完了です。エージェント方式の場合、メーカーが売主なので、メーカーが負担します。

 以上、まとめますと、ディストリビューター方式であれば、代理店は売上が大きくなる一方、対顧客でのリスクを負います。一方、エージェント方式では、代理店は対顧客のリスクを回避できますが、手数料ビジネスになってしまいます。

 両者の違い、だいたい分かったでしょうか。大切なのは、どちらの方式が自社に有利か、不利かではなく、どちらの方式が自社のビジネスにマッチするのか、という点を理解することです。ちなみに、技術力のある中小企業の商品を大手企業が代理店販売する場合は、ディストリビューター方式になることが多いです。

 気をつけないといけないのは、どちらの方式か不明確な契約はトラブルの元です。例えば、代理店として、顧客への販売価格を売上にしたいが、顧客に対する責任はメーカーに負わせたい、など。代理店契約書を作成する際は、どちらの方式なのかを明確にしましょう。

扱う商品・結ばれる契約を理解する

 2番目のポイントは、『扱う商品・結ばれる契約を理解する』です。

 IT企業が結ぶ代理店契約で、扱う商品・結ばれる契約は何でしょうか。この問題は、エージェント方式ではあまり重要ではありません。顧客と契約をして商品を販売するのは、あくまでもメーカーであり、顧客としては、成約に応じて手数料が払われれば、それでいいからです。そこで、ディストリビューター方式の場合について、解説をします。

 まず、ハードの代理店契約の場合、

扱う商品:物体としてのハード

結ばれる契約:メーカー/代理店/顧客では、CD-ROMの売買契約です。

 次に、パッケージソフトの代理店契約の場合、

扱う商品:物体としてのCD-ROMと、データとしてのソフト

結ばれる契約:メーカー/代理店/顧客では、CD-ROMの売買契約と、ソフトのライセンスを受ける権利の売買契約

メーカー/顧客では、ソフトのライセンス契約です。

 さらに、ダウンロード型ソフトの代理店契約の場合、

扱う商品:データとしてのソフト

結ばれる契約:メーカー/代理店/顧客では、ソフトのライセンスを受ける権利の売買契約

メーカー/顧客では、ソフトのライセンス契約です。

 最後に、クラウド型サービスの代理店契約の場合、

扱う商品:クラウドサービス

結ばれる契約:メーカー/代理店/顧客では、クラウドサービスを利用する権利の売買契約

メーカー/顧客では、クラウドサービスの利用契約です。

 このように、IT企業が代理店契約を結ぶ場合、扱う商品によって、結ばれる契約は、これだけ複雑になります。

 昔の代理店契約では、物体としてのハードを扱うのが一般的でした。そのため、旧来の代理店契約の理解では、このように複雑な現在の代理店契約は整理できません。旧来の代理店契約書の内容は、現在の代理店契約に適さないのです。

 ですが、世の中に出回っている代理店契約書は、旧来の代理店契約の内容のままです。そのような旧来の代理店契約書を使ってしまうと、様々なトラブルが起きます。

 例えば、ソフトにバグがあった場合や、クラウドサービスでシステム障害が起きた場合、顧客への責任を、代理店が負ってしまう可能性があります。また、顧客がソフトやサービスを不正利用した場合、メーカーへの責任は、代理店が負ってしまう可能性があります。

 というわけで、データとしてのソフトやクラウドサービスを扱う代理店契約を、ディストリビューター方式を結ぶ場合は、扱う商品、結ばれる契約を正しく整理した代理店契約書を作成しましょう。

独占契約では、直接販売権・競合品取扱・最低購入数量の3点が重要

 3番目のポイントは、『独占契約では、直接販売権・競合品取扱・最低購入数量の3点が重要』です。

 代理店契約には、通常の代理店契約と、「独占代理店契約」があります。「独占代理店契約」というのは、その代理店に、その商品の取扱を独占させる契約です。

 代理店にとって、独占契約は魅力的です。代理店としては、コストをかけて販売活動を行います。ようやく販売実績が上がり、コストを回収できる段階になって、他の代理店に、楽に販売されたら困ります。一方、メーカーにとって、独占契約はリスクがあります。というのは、代理店の販売能力や販売意欲がない場合、商品が塩漬けにされてしまうからです。

 そこで、独占契約でポイントになるのが、「直接販売権」・「競合品取扱」・「最低購入数量」の、3点です。

 「直接販売権」とは、メーカー自身が直接商品を販売する権利です。これがメーカーに留保されていると、代理店には不利になります。ようやく販売実績が上がり、コストを回収できる段階になって、メーカーに(直販価格で)楽に販売されたら困ります。

 一方、直接販売権を制限すると、メーカーには不利になります。代理店の販売能力や販売意欲がない場合、商品が塩漬けになってしまいます。

  「競合品の取扱」とは、代理店が、独占契約を与えられた商品と競合する他社メーカーの競合品を取り扱うことができるか、という話です。取扱いが可能だと、メーカーには不利になります。自社製品に力を入れてもらえないかもしれませんし、競合他社に自社の機密情報が漏れる可能性があります。

 一方、取扱いが禁止されると、代理店には不利になります。競合品の方が魅力的で売れている場合でも、手を伸ばせなくなってしまいます。

 「最低購入数量」とは、代理店が、メーカーから最低限購入する商品の数量です。独占契約では、商品が塩漬けにされないよう、当然に定められています。問題は、未達成時の処置になります。最低購入数量はあくまでも努力目標とすると、未達成時に、そもそも契約違反になるか(どのような効果が生じるか)不明です。

 一方、最低購入数量分の購入義務を課す方法は、代理店がきちんと活動をすれば最低購入数量分を上回る販売が期待できる場合でも(つまり、最低購入数量を低くし過ぎてしまった場合でも)、独占契約を解除できず、機会喪失が生じてしまいます。かといって、未達成の場合は代理店契約が解除とすると、代理店が反発するでしょう。

 以上の3点は、自社がメーカー側か代理店側かによって、有利・不利か変わってきます。自社に不利でない代理店契約書を作成しましょう。

再販売価格の拘束は、独占禁止法に違反する

 4番目のポイントは、『再販売価格の拘束は、独占禁止法に違反する』です。

 ディストリビューター方式の場合、顧客への販売価格は、代理店が決定することになります。ただ、メーカーとしては、値崩れを防ぐためにも、代理店に安売りされたくありません。そのため、メーカーは、顧客への販売価格を指定したい、つまり再販売価格を拘束したいと考えがちです。

 ですが、再販売価格の拘束は、「独占禁止法」に違反します。「独占禁止法」というのは、不公正な取引方法を制限する法律でして、再販売価格の拘束は、まさに不公正な取引方法として禁止されています。

 再販売価格の拘束に該当するケースは、色々あります。まず、顧客への販売価格を拘束する内容の代理店契約を結ぶ場合は、ダイレクトに該当します。次に、メーカーの示した価格で販売しない場合に、出荷停止等の不利益を課すという、間接的な圧力をかける場合も、該当します。さらに、メーカーの示した価格で販売する場合に、リベート等の利益を与えるという、逆の側面から圧力をかける場合も、該当します。

 どうでしょう。メーカーからすると、なかなか厳しい制限ですね。とはいっても、契約の形態を工夫することで、再販売価格の拘束に近い効果を発揮させながら、独占禁止法に違反しない契約を結ぶこともできます。独占禁止法に違反する代理店契約を結ばないよう、注意してください。

契約の終了の仕方を決めておく

 それでは、5番目のポイント『契約の終了の仕方を決めておく』です。

 代理店にとって、代理店契約が終了することは、嬉しい話ではありません。代理店は、商品の販売活動にコストをかけています。ようやく販売実績が上がり、コストを回収できる段階になって、代理店契約を終了させられたらたまりません。

 ですが、代理店契約が、契約期間が短期間で自動更新の場合、代理店は、その都度、メーカーから、更新を拒絶される可能性があります。また、代理店契約に中途解約の規定がある場合、代理店は、契約途中に、メーカーから一方的に契約を中途解約される可能性があります。そのため、代理店としては、契約期間は長めで、更新拒絶や中途解約を制限した代理店契約書を結ぶ必要があります。

 一方、メーカーにとって、代理店契約が終了することは、どちらかといえば望ましい事態です。例えば、安く設定してしまった代理店(ディストリビューター方式)への販売価格や、高く設定してしまった代理店(エージェント方式)への手数料を変更したい場合。あるいは、独占契約を結んだものの、代理店に販売意欲や販売能力がなく、商品が塩漬けになっている場合。さらには、代理店が不適切な販売活動が行っているので、やめさせたい場合。

 いずれも、まずは交渉で解決を目指しますが、話がまとまらなければ、メーカーとしては契約を終了させたいところです。そのため、メーカーとしては、契約期間は短めで、更新拒絶や中途解約が自由な代理店契約書を作成する必要があります。

 というわけで、代理店契約の5つのポイントについて解説してきました。これまでの記事を読んで、自社がメーカー側か、代理店側かによって、代理店契約の有利・不利な内容の違いは、分かったかと思います。どちらの立場の場合でも、自社に不利な代理店契約を結ぶことのないよう、気をつけてください!